全てはシナリオのままに
アレクサンドルは、ワイズリートとの交渉を思い出す。
『最初の提案だが』
開口一番、確かに聞いた言葉。
それは二つ目、或いは三つ目の提案があるということか、と、気付く。
すぐさまフランコを呼びつけ、その真意を確かめるべく、ワイズリートのいる中央大教会に向かわせる。
シャアリィの敗戦から、たったの一時間。
まだ、その野望を捨てきれないのか、と、半ばフランコは呆れる。
受付で、ワイズリートとの面会をフランコが願い出れば、待ち構えていたかのように、そのままワイズリートの書斎に通された。
「やぁ、フランシスコ大司教」
「次なる交渉のカードの確認だね?」
ソファには、『受難の聖女』が寛ぐ。
その存在から放たれる圧力は凄まじい。
だからこそ、フランシスコのような精鋭の体術使いでも平気で書斎に通したのだろう。
「その通りです」
「記憶が正しければ、ワイズリート卿は、『最初の』と、口にされたので」
「烏滸がましくも、提案をお聞きしたく参りました」
ワイズリートは、少しばかり思案した後、突拍子もないことを告げる。
「きみは、明日、明後日にでも、枢機卿になる意志はあるかね?」
「それとも、ずっと、アレクサンドル卿に付き従うつもりかな?」
「その返答次第で、私の提案は変わるんだ」
あまりにも生臭い話だが、今更フランコを嵌めた所で、ワイズリートに利益はない。
それに、先程の戦闘にしても、明らかにシャアリィの保護を優先していた。
それならば、と、
「消去法です」
「私は、この教皇選抜が終わった暁には、アレクサンドル卿と袂を分かつつもりです」
「アレクサンドル卿かワイズリート卿が教皇になられた場合に空位となる、枢機卿の椅子を私に、という話であれば、喜んでお受けします」
「袂を分かつ以上、アレクサンドル卿とは敵対関係になりますので少しでも力は欲しい」
ワイズリートは微笑み、リーシャに告げる。
「あとは、きみの姉上達だね?」
「さすがに今はそっとしておこうか」
「リーシャ、索敵を頼むよ」
「ここからは内密な話なんだ」
「誰にも聞かせたくない」
「まぁ、空いている席に掛けてくれないか」
促されるままに、フランコはソファに着座する。
「私は、教皇の席をアレクサンドル卿に譲ろうと思うんだ」
「条件は三つ」
「アイシャ・セロニアスを西方から外すこと」
「シャアリィ・スノウも同様に、西方から外すこと」
「そして、三つ目がきみ」
「ジョルジアット・フランシスコを枢機卿にし、必要以上の影響力を行使しないこと」
フランコは手短に問う。
「何故、ですか?」
ワイズリートが書斎の棚の本を見やりながら答える。
「彼が聖職者を逸脱しているからさ」
「今まで積み重ねた罪科・・・ただ潰すだけでは正義が成り立たない」
「人生の最高潮から、どん底に突き落とした上で始末する」
「それが学舎の先輩としての餞別だ」
「それにね、この子の姉たちに責任を負わせたくないのさ」
「『廃棄の王』の魔石、ちょろまかしてるだろう?」
「私がそんなことも見抜けない間抜けだと思うかね?」
フランシスコの沈黙は、全てがワイズリートの見立て通りだと物語っている。
「昔は結構、いい奴だったんだ」
「ひとつのパンを分け合ったことだってある」
「まぁ、私の思い出話など意味はないな」
「今日は私を探したけれど、会えなかったことにし給え」
「そうするだけでいい」
ワイズリートの言葉にフランコは少しばかり口角を吊り上げる。
「ええ、私は四方八方を探しましたが、ワイズリート卿には会えませんでした」
リーシャが笑う。
「良い返事が聞けて幸い」
「今後とも、琥珀の姉様も含めて、姉妹共々宜しくお願いするわ」
「楽しいお酒が飲めるといいわね?」
そう言う、リーシャの瞳が極上のワインを想起させた。
「ええ、私の自慢のコレクションから一品」
「それで祝杯をあげましょう」
こうして、アレクサンドルの命運は尽きた。




