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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
教皇争奪戦編
418/433

完全なる敗北

たかだか三十メートルとは言え、ほぼ全力で駆け抜けたシャアリィの息は荒い。

だが、やっと勝負出来る距離まで辿り着いた。

シャアリィの螺旋杖から、今までのお返しとばかりにアイス・ブラストが放たれ、その結果を待つこともなく、続け様にストーン・バレット、バレット・サークル。

さらに間合いを詰めるべく、前に向かって走る。


リーシャが何かを呟き、アイス・ブラストが蒸発する。

それだけならばまだしも、石の礫であるストーン・バレットもが消え失せる。

直後、肌に感じる熱気・・・。


『カオス・フレイム』


リーシャはシャアリィから放たれた術式を『溶かした』のだ。

至近距離で使われたならば、それは間違いなく即死術式・・・。

だが、リーシャはそれを攻撃に使ったわけではない。


驚愕に震えるシャアリィ。

リーシャの常識外れはそれだけに留まらない。

やっと縮めた距離を今度はリーシャが、ゼロにする。


シャアリィが術式を詠唱する暇もなく、その鳩尾に炸裂する膝蹴り。

血反吐を吐き、転がるシャアリィの前で、自らも口から血を流す『受難の聖女』。


まだ、止まらない。


そう、リーシャは『不出来者』とは言え、セロニアスなのだ。

石畳に背を預けたままのシャアリィにマウント・ポジション。

その端正な美貌に遠慮なしの、拳をぶつける。


当然、リーシャにも倍するダメージが跳ね返ってくるが、お構いなしだ。

シャアリィの右頬に二度目の拳が直撃する。

互いに弾かれる頭部、そして切れる米噛み。


リーシャは、ざっくりと開いた己の傷をも省みず、三度目の拳を振り上げる、が、それは立会人によって阻まれた。


「勝者、リーシャ・セロニアス・アビス」


リーシャの身体の下で、シャアリィは意識を失い、戦闘続行不能となっていた。

術式使いにあるまじき、体術による決着。

それはリーシャの温情だ。


どんなに加減をした所で、リーシャの術式は・・・強過ぎる。

それならば、相手の術式を封殺した上で、殺さないやり方をするほうがいい。


「『傷物にしない』なんて約束、守れるはずないじゃない」


と、リーシャは呟き、闘技舞台から降りる。

そこに駆け寄ってきたのは、勿論、ワイズリートだ。


「さぁ、傷を見せて?」

「琥珀め、反射術式を持っていたのか」

「可愛い顔が台無しじゃないか」


ワイズリートが、すぐさま、エグゼ・ヒールを詠唱する。


・・・


シャアリィも又、アレクサンドルのエグゼ・ヒールで、目を覚ます。


「アレクサンドル卿・・・力及びませんでした」

「申し訳ございません」


アレクサンドルはただ頷き、その場をアイシャに任せた。


「ははは・・・あれは勝てないわ」

「自分も反射で傷つくのわかってて、あの気迫」

「為す術もない完敗」

「言い訳一つないよ」


シャアリィは、それでも顔に悔しさを滲ませる。

アイシャは元通りになったシャアリィの頬に自分の頬を合わせて耳元で囁く。


「あれと戦えるだけでも、シャアリィは凄いんだよ」

「私は見ているだけで足が竦んだ」

「あの子はアンタッチャブルだ」

「誰もシャアリィが弱いなんて思わないさ」


フランコが、シャアリィの背中から声を掛ける。


「よく戦ってくれた」

「主に代わって礼を言うよ」

「それに詫びも」

「大役を背負わせて済まなかった」


最早、フランコは心に決めていた。

近い将来、主を見限ると。


この美しい少女が、誰かのために戦うならば、何かを勝ち取らなければ報われない。

何も得るものがない戦いで、敗北という屈辱を味合わせていいはずがないのだ。

この感情は、そう、憎悪だ。


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