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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
教皇争奪戦編
417/442

術式の性能差

安息日、午後二時、アーシアン武芸闘技場。

一万人弱の観客を迎え入れることが出来る、最大規模の円形コロシアム。

先日の教皇崩御により自粛ムードだった街の人々にとって、今回の催しは誰もが待ち望んだ血沸き肉躍るような対戦。


何しろ、アーシアン迷宮を踏破した英雄が、人々の間で恐怖の対象となっている『受難の聖女』と戦うのだから興味を持たぬ者などいない。

コロシアムに入りきれない者は遠見櫓(とおみやぐら)から望遠具を用いてまで見たい最高の娯楽。

否、娯楽の域を超え、人々の希望を賭けた一戦と言っても過言ではない。


誰もがシャアリィの勝利を願い、声高にそれを叫ぶ。

『受難の聖女』を打破出来る者がいなければ、人々の心の安寧は揺らぐ。

当の本人たちは、そんな民衆の気持ちなど知ったことではないのだが。


シャアリィは、それ以前に、そんなことまで気が回る余裕などあるはずもない。

近寄るだけで本能的な拒絶さえ感じる、そんな相手なのだから。

自分達が命を賭して討伐したドラゴンを、無傷で捕えるような少女。

否、少女の外見をした兵器。


拡声魔具から、対戦者の紹介が為される。


「二つの迷宮を踏破、四つの名有りを葬り、たった二人でドラゴンをも討伐したアーシアン史上最強の冒険者、その名は・・・シャアリィ・スノウ!」


万雷の喝采が響き、皆がシャアリィの名を呼ぶ。

そして、勝利を願い、それを声高に叫ぶ。


「火炎竜を従えた鮮烈な登場は記憶に新しい、中央大教会の守護者、先代教皇から与えられし称号は『混沌(アビス)』、その名は・・・『受難の聖女』リーシャ・セロニアス・アビス!」


沈黙の中、対戦観覧席のワイズリートの拍手のみが小さく響く。


「仕方ないとは言え、嫌われたものだね・・・それを含めての『受難の聖女』」

「あの子の行く先は、何時も苦難に満ちている」

「私が背負わせた業なのだから、私だけは彼女の味方だ」


ワイズリートが侍従の者に言った言葉は、コロシアム中央に立つリーシャには届かない。

だが、そんなことはリーシャも承知の上。

自らの運命をワイズリートに委ねた時から、二人は共にある。


集団戦をも想定した石畳の闘技舞台は、四方百メートルもの広さ。

術式使い同士故に、最初の定位置は中央から二十メートルづつも離れた場所。

つまりは、相手の表情さえも見分けがつかない程の四十メートルという間合い。


シャアリィは螺旋杖をリーシャに向け、リーシャは無手の右の指先をシャアリィに向ける。


拡声魔具を手に持った立ち合い人から、対戦のルールが案内される。


「禁止術式は、召喚獣、即死術式と段階的致命術式」

「勝負の決定は場外、失神、降参、その他の戦闘不能状態」

「反則行為は、勝負中の他者の直接介入、術式補助」

「立ち合い人の裁定による中断の場合には、優勢だった者を勝利者とする」

「あくまで術式競技を目的とし、相手を死に至らしめた場合には敗北とする」


そう、これは殺し合いではなく、手合わせなのだ。

それを信じていなければ、シャアリィはこの舞台には登れない。


「では、開始まで、五・・・四・・・三・・・二・・・一・・・」

「開始!」


響き渡る銅鑼の音、義姉妹による戦いが始まった。

シャアリィの術式の多くは、射程十メートル未満。

前に出ないことには始まらない。

杖を構えたまま、ゆっくりと中央に向かう。


突如、小さな唸りを伴った何かがシャアリィの左肩を撃ち抜く。

それは、リーシャの指先から放たれた長距離狙撃術式。


『カオス・バレット』


その一撃で、シャアリィの左肩が赤く染まる。

何が起きたのか、シャアリィにはわからないが、本能がそれをリーシャからの攻撃と判断した。

走らなければ狙い撃ちされる、そう、判断したシャアリィはリーシャ目掛けて走り出す。


リーシャは指先を天に向け、何かを呟いた。

そして、指先が三度、何かの反動を受けたように揺れた。


シャアリィは理解する。

上空から三連撃のカオス・バレットが来る、と。

先程の一撃で、朧げに掴んだ術式弾の速度。

それに合わせて、右へ左へと進路を変える。


シャアリィの動きに一呼吸遅れて、石畳に術式が正確に着弾する。

その弾道・・・追尾式術式!?


段違いの術式性能差、シャアリィは走りながら、補助術式を詠唱。


「俊足を!」

「報復を!」


距離十五メートル。

そうだ、術式使いと戦う時には、何時だって距離が最大の敵だった。

リーシャが待ち受けるように胸の前で、腕を交差させ、呟きと共に腕を開く。

胸の高さでシャアリィに向かって飛んでくるのは、漆黒の刃。


『カオス・サイス』


それは回転しながら、シャアリィの前進を阻む。

シャアリィは、上半身を後ろに反らし、反射で躱すが刃の速度が尋常ではない。

重力に遅れて落ちる前髪、シャアリィの鼻先数センチ上を刃が通過。

前髪の一部がばっさりと切断され、その威力が下手をすれば致命であると理解した。


その直後、リーシャの髪の一部が毟り取られるように喪失する。

一瞬のうちにリーシャは、シャアリィの反射術式を看破。


「ふふっ、髪の一房とは言え、私を傷つけた者は初めてよ」

「さすがは、琥珀の姉様」

「良い術式を持っている」

「さて、次は何を見せて楽しませてくれるのかしら?」


リーシャは楽しそうに笑う。


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