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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
教皇争奪戦編
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喉元の刃

迎えた三度目の投票。

アレクサンドル以外の枢機卿は皆、憑き物が落ちたように穏やかな表情だ。

自分だけが背中に嫌な汗をかきながら、踏み止まっている現実。

最早、此処までと投票用紙に願望と違う名を書きそうになる。


だが、アレクサンドルの執念は見事。

自らに票を投じ、最後まで抗う。


・・・


開票。


西方一票。


自分の手で書き入れた、当然の一票。


西方二票。


そうだ、あの化け物に怯える必要はない。


西方三票。


まさか、私が選ばれるのか?


中央一票。


目の前が昏くなる。

あと一票が重く圧し掛かる。

これが今回の教皇争奪戦、他の枢機卿の意志決定だ。

アレクサンドルは落胆の溜息を吐いた。


アレクサンドルに託した票ではなく、アレクサンドルを生贄に選ぶ票。

ワイズリートが、何処かの領に宣戦布告をするならば、西方にすれば良い・・・その悪意が集まっただけ。

それはワイズリートに票が入るよりも、アレクサンドルの精神を深く抉った。


票だけで見ればアレクサンドルの圧勝だが、表情を見れば明白。

余裕の笑みを絶やさぬワイズリートと、苦悶に歯噛みするアレクサンドル。

ベネディクトとニコラウスは、無言で席を立ち、投票室を出てゆく。


「さて、アレクサンドル卿」

「やっと本筋が見えたようだね」

「望むならば、話し合いのテーブルを用意しようじゃないか」

「それとも殺し合いをご所望かね?」

「どちらでも受けて立つが、話し合いならば早めの決断を頼むよ」

「うちのリーシャは気が短くてね?」


言い残し、ワイズリートは去る。


・・・


失意に歪んだ視線、覚束ない足元で、アレクサンドルは帰路を進む。

何度も転びそうになりながら、護衛に支えられ、体勢を立て直す。

こうなると最初からわかっていたのではないか。

自問自答を繰り返した所で、最早手遅れ。

憔悴しきった顔でホテルの部屋に辿り着くのが精一杯だった。


しかし、まだ義務は終わってはいない。

同盟の面々に報告をしなくてはならない。

せめて表情だけでも取り繕わなければと鏡を見れば、そこに映るのは哀れな男。

自分自身に言い訳をする。


「私は善処した、同盟の意志を最大限に尊重し、最後までやり遂げた」

「ただ、結果が伴わなかっただけなのだ」


と。


コップ一杯の水を飲み、ほんの少しばかり英気を取り戻す。

向かう先は、ティーラウンジ、報告のテーブル。

そこには既に他の面々が待機していた。

まるで自分を憐れむような視線、その顔の裏側で嘲笑しているのではないかと猜疑する。


「端的に結果だけを述べれば、私に三票、ワイズリートに一票」

「そして、ワイズリートから、話し合いの席を設ける用意があると言われた」

「あるのは二つの選択肢」

「教皇の椅子を得る代わりに、莫大な代償を支払うか」

「ささやかな代償を受け取って、教皇の椅子を諦めるか、だ」

「皆の意見を聞かせてもらいたい」


アネモイが極めて現実的なことを口にする。


「莫大な代償と、ささやかな代償、その中身次第ではないでしょうか?」

「それがわからないうちには決めようもありません」

「五年、十年で回復可能な代償ならば、用立てることも吝かではありません」

「しかし、無条件降伏のような回復不能の代償は支払えません」


そこにいる皆が同意し、解答は示された。

アイシャとシャアリィ、そしてアネモイ、フランコは、この結末を予想していた。


「アレクサンドル卿・・・あとは貴方の決断次第です」

「同盟とはそういうもの」


今まで沈黙を貫いていたフリードリヒの言葉に背中を押され、アレクサンドルは頷く。


「ああ、最後の最後で一手及ばなかった」


フランコは、哀れな主を励ますように、締めの言葉を選んだ。


「ともあれ、北方の台頭を未然に防ぐことは叶いました」

「それだけでも、この同盟に価値があったと、私は思います」

「交渉のテーブル、まだ、最後のどんでん返しの可能性はゼロではありません」

「それに賭けましょう」


思えば、ワイズリートが、『受難の聖女』を披露した時点で、ここまでの筋書きは決まっていた。

策謀家のアレクサンドルが冷静さを欠いたのは、教皇の椅子という無二の栄光のせい。

誰も彼を笑うことなど、出来はしない。


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