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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
教皇争奪戦編
414/455

ジョルジアット・フランシスコ

その少年は優しく、聡明で、正義感が強く、信心深かった。

少年の憧れた父は司教、その先代も、その先代も。

長く続く家系を辿れば、枢機卿、教皇にも連なるフランシスコ一族。


神の無慈悲を初めて味わったのは、兄の死。

何の前触れもない原因不明の突然死。

今ならばわかる、それは急性の心不全であったと。

だが、当時のジョルジアットには受け入れ難い喪失だった。


彼は努力というものと無縁だった。

学問も、運動も、理屈を覚えればスポンジのように全てを吸収する。

だからこそ、他人の痛みを理解出来なかった。

痛みは自分だけのものだった。


自分を基準に考えれば、誰もが怠け者に見え、誰もが愚か者に思えた。

同世代の者とは話も合わず、女性ばかりが自分を慕い近付いてきた。

何故、と、考え、それが自分の容姿に理由があると理解すれば、女性への興味さえも失った。


彼の時間を満たしたのは、書物。

特に好きだったものは歴史書と治癒術に関するもの。

それを読み耽る時だけは心が躍った。

いずれ、自分も聖職者になると決めていた。


そして、運命の日。

彼はマーヴェリック事件の真相と、自分の家系がそれに加担していた現実を知る。

祖父の日記・・・それが彼の歯車を狂わせた。

自分が目指す聖職者が、教皇の命に従い殺戮を犯していたことを知れば、自分の心の容れ物が何故かぴたりと埋まる実感があった。


正義という薄っぺらな枷を自ら外し、酒を覚え、自由に振舞うことで満たされた。

気に入らなければ殴ってわからせればいい、邪魔ならば蹴飛ばせばいい。

何度も衛兵所に世話になったが、家柄のお蔭で大した罪にも問われない。

しかし、ついには暴力にも飽きてしまった。


何も残っていない陰鬱な日々、不意に巡り合ったのが、クリムゾン・アレクサンドル。

年の離れた聖職者に魅了された理由は、その狡猾さ。

そしてアレクサンドルも気付く、ジョルジアットの類稀な才能に。


「神学校を卒業し給え」


その一言は啓示。

所詮、自分には人殺しの血が流れており、信仰など救いにならないと諦めていた人生の一筋の光。

たとえ祈りでひとが救えなくとも、治癒術ならば救える。

そして、自分にも、その能力の素養があるならば、修道士になることに迷いはなかった。

 

沢山の人間と触れ合ううちに感情は豊かになり、沢山の死に立ち合えば顔に出さずとも心の痛みを覚えた。

この世界は無常。

弱き者は濁流に浮かぶ一枚の木の葉。

世界の真実を知れば、なんという偽善、なんという出鱈目、如何様(いかさま)

それでも、おかしなことに人は自分の祈りで救われる。


ああ、神とは罪深い幻想。

でも、それでいい。

人々だって自分を信じているわけでなく、信頼の根源は聖衣と十字架。

そう思えばお互い様だ。


悪党とも上手く付き合い、結果良ければ世は事も無し。

飄々と淡々と暮らしていれば、出世の道は思ったよりも近かった。

アレクサンドル譲りの狡猾さは、彼の人生の教訓だ。


まずは疑え、それから疑え、疑い続けて、最後に嗤え。

そして、二度目の変革の日。


金色の瞳の少女が、彼の心を揺さぶった。

久しく忘れていた善なる心を思い出した。

だからこそ、迷う。


そろそろ本物の聖職者になっても良いのでは、と。


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