狼のアネモイ
アレクサンドルの宿泊するホテル、その階下にはフリードリヒ、アネモイ、シャアリィとアイシャも宿泊している。
四人はアレクサンドルの帰りを待ち、本日の投票と今後の戦略について話し合う予定だ。
「ただいま戻りました」
「ティーラウンジを貸し切りましたので、ご案内します」
フランコがフリードリヒ、アネモイ、シャアリィとアイシャを先導し、アレクサンドルの待つティーラウンジに向かう。
「今日の報告を共有しよう」
と、アレクサンドルが会議の始まりを宣言する。
「投票結果は言わずもがな・・・各陣営が自らに投票」
「これは初手として当然」
「教皇争奪戦への参加表明のようなものだ」
「皆、承知の通り、現状、頭一つ飛びぬけているのは、中央」
「『受難の聖女』とか言う、化け物を見せられ、他の陣営は萎縮してしまった」
「恐らく、最後まで抗い、よしんば勝ちを拾えるのは我が西方のみだ」
「当初の目的である、打倒北方は叶うと見て間違いない」
「フリードリヒ卿、アネモイ領主様には顔向け出来そうだ」
淡々としながらも、アレクサンドルの眼光に曇りはない。
「しかし、そうなれば最終的に中央との対立は避けられぬ」
「アイシャ、シャアリィ、フランシスコには、また面倒を掛けるやも、だ」
シャアリィが嫌な表情も隠さずに言う。
「正直、私とアイシャで、ドラゴンを倒すのが精一杯」
「それにリーシャが加わるなんて、無理も無理」
「対立は構いませんが、武力闘争は出来る限り避けて頂きたいものです」
ドラゴンを倒せるだけでも称賛に値するが、それ以上が求められている現状は厳しい。
アレクサンドルは、笑顔を絶やさずに言ってのける。
「勿論だとも」
「それ以前に、我々が考えなければならないことは、北方と東方の利権」
「どちらも、タダで票をくれるようなお人好しではない」
「西方のことであれば、私が領主殿に捻じ込むが、レリットランスに関わることであれば、フリードリヒ卿、領主様、双方に頑張って頂かなければならぬ」
「ザグレブホーン、イルオールドは地政学的に見ても、隣国と接する辺境領だけに、その役割の負担を他領にも負わせたい所だろう」
「それが人的資源なのか、それとも金銭なのか」
「勿論、私が教皇となれば、ナセルバからの収益でそれを負担させる」
「ここで申し上げたいのは、教皇が決定する以前に約定を交わさぬこと」
「それだけは絶対に守って頂きたい」
アネモイは頷き、フリードリヒは笑顔で応じる。
「私の予想では、次の投票で東方か北方が尻尾を出す、と、読んでいる」
「西方同盟から票の買い付け料を上乗せさせるために、どちらか、或いは両方が中央に票を入れるだろう」
「そうなれば、奴らの魂胆もわかり、こちらが有利に事を運ぶことが叶う」
「次回、投票の結果を期待してもらいたい」
フランコが、次回の会議の予定を伝え、解散を告げた。
「では、引き続き皆さまのご協力、お願い申し上げます」
「これにて閉会ですが、アレクサンドル卿に火急の用件があれば、私にお申し付け下さい」
アレクサンドルと、フランコ、フリードリヒは席を立ち、アネモイ、シャアリィ、アイシャは引き続き、お茶を楽しむようだ。
・・・
枢機卿たちの退場を確認した後、アネモイが口を開く。
「正直、私は半分後悔しています」
「まだ取り返せる段階ではありますが、アレを見せられたならば・・・」
「本当に勝ち目はあるのかしら?」
アイシャが答える。
「戦いになれば勝ち目はありません」
「ですが・・・私とリーシャは姉妹です」
「身内同士で殺し合うなど、どれだけ望まれても御免です」
「ですから、最後まで戦い以外の決着を模索します」
「領主様のお力添えをお願いします」
アネモイは、微笑んで返答する。
「半分だけよ、後悔は」
「私自身が選んだことを誰かのせいにするつもりもなければ、ここまで来て負け犬になるつもりもありません」
「だって私は、『狼のアネモイ』ですよ」
冗談交じりの力強い言葉に、シャアリィも、アイシャも安堵した。




