第一回投票
初回の投票が教皇庁最上階特設投票室で行われた。
投票に出席出来るのは、陣営代表の枢機卿本人のみ。
たった四票の投票は速やかに行われ、その開票も又、早い。
中央一票。
読み上げられる投票。
西方一票。
これで、今回の投票での教皇決定はなくなった。
北方一票。
序盤なのだから、当然の流れ。
東方一票。
この時点から駆け引きが始まる。
「ふむ、何方も譲って下さらぬとは、残念至極」
「次回の投票を楽しみにしましょう」
自信あり気にワイズリートは、言葉を残し立ち去る。
残された三名の顔色は優れない。
しかし、表情だけは余裕を絞り出し、これから始まるパワーゲームに抜かりはない。
・・・
既に戦いを放棄している東方、北方はどちらに票を入れるのが得策かを考える。
その答えも出ているが、少しでも利益を上乗せするには、沈黙が一番だ。
自分から見返りを要求すれば、足元を見られる。
「ふふ、当然の流れで安心しました」
と、アレクサンドルが先輩枢機卿を横目に席を立つ。
「全く、同感ですな」
と、ニコラウスがベネディクトに笑い掛ければ、
「茶番はここまで、願い事の申し入れならば大歓迎」
と、重鎮ベネディクトも笑顔で答えた。
その内心は、一つ。
西方への加担。
東方も当然、西方に加担する。
中央は派手なお披露目で反感を買ったのだ。
それに強気の中央では、取引も安めを掴まされるのは目に見えている。
それならば、西方に恩を売る方が見返りも大きい。
問題はタイミング。
次回、中央に票を入れ、早々に西方にプレッシャーを掛けるか、それとも西方に票を入れ、喜ばせて欲を引き出すか。
或いは、動くのは時期尚早か。
それが駆け引きというものだ。
・・・
各陣営のうち、中央は本拠地も近いために宿泊は教会内部。
それぞれの陣営は、護衛の待機する特別室まで戻ると、それぞれが別々の高級ホテルの最上階へと引っ込んでゆく。
道中で口を滑らせるような軽薄者はいない。
ニコラウスは、部屋に到着するなり、ベッドに身体を投げ出して顔面を両手で覆う。
自分でも感じているが、他の三者に比べれば役者不足は否めない。
次回の投票まで一週間。
早ければ数時間後にも、何処かの陣営から接触があるかも知れない。
「卿よ、大儀であったな」
そんな口ぶりをされれば、どちらが主人か分かったものではない。
「ああ、ラモン・・・気疲れとはこういうことだな」
「お前の率直な物言いを好ましく感じるとは、情けない」
ニコラウスの側近修道女、ミンティ・メリンダがニコラウスを労う。
「何を得るかの勝負」
「失うモノなどないのですから、気楽に考えられては如何ですか?」
確かに投票室で失うものはない。
だが、この瞬間にも自分の命は襲撃の危機に晒されているのだ。
「失うモノがない?」
「お前は教皇争奪を甘く見ている」
「言いなりにならない相手に言うことを聞かせるために手段を選ぶような連中ではないのだぞ」
「その火蓋が落とされた今、気楽になぞしていられるか!」
言われて気付く失言。
それと同時に我が身も渦中にあるという戦慄。
メリンダは顔を青くする。
それを横目に、ニコラウスは溜飲を下げる。
「わかったならば、愚図愚図せず、次の一手を考えよ!」
メリンダはへたり込みそうな脚を奮い立たせ、部屋を後にした。




