余波
東方陣営は、既に教皇闘争を諦めた。
それは、ラモンの戦闘放棄が明確になったからだ。
「某の剣は、彼奴には届かぬ」
「乗り掛かった舟故、未届けはするが・・・」
「竜を従えるような者は、既にヒトではない」
「このラモン、ヒトならば何人だろうと切り伏せるが、アレは御免」
その言い分は、正しい。
『受難の聖女』を前にして、矛を交える等と言える者は、ただの愚か者。
既に東方はカルテリアル参加という大義も果たした。
さすがに同盟もなしに、教皇戦に勝ち残るのは無謀過ぎる。
だが、まだ取引できる材料はある。
カルテリアルの一票、それが全て揃わなければ教皇にはなれない。
最後まで強気の姿勢だけは崩さず、その一票で何らかの取引をすることが目的になった。
・・・
北方陣営は、経済力を武器に他陣営の篭絡や懐柔を狙う、が。
その雲行きは怪しい。
何故ならば、教皇になればナセルバ迷宮の権利に圧力を掛けることも出来る。
つまり、金貨数千枚程度の端金等、中央や西方にとって魅力ではない。
仮に金で圧力を掛けるならば、ナセルバ迷宮の利権の半分は必要だろう。
国内最高水準の騎士、戦士を擁する北方であっても、『受難の聖女』には届かない。
「まだ、アレは完成しないのか?」
ベネディクトが魔石を買い漁っていた理由・・・それは超兵器の開発。
その名は、
『人工天使』
融合義肢の技術を応用した全身金属の身体。
腕を除く上半身をヒトとし、全身に複数の魔石を備える。
ヒトを越えた魔力伝達と魔力蓄積を可能にする魔道兵器。
完成どころか試験体運用もまだ出来ていない。
その工程は余りに複雑。
設計思想だけが先行している際物。
最早、教皇争奪戦には間に合わない。
『受難の聖女』のお披露目によって、ベネディクトの野望は潰えた。
そうなれば東方と同じく、中央と西方のどちらに票を入れるかの決断。
・・・
実際の所、ワイズリートはそれ程、教皇の椅子に拘ってはいない。
競り合う相手は、アレクサンドルだろう。
条件次第では、アレクサンドルに教皇を譲っても構わないとさえ思っている。
だが、その条件はアレクサンドルにとって致命的。
シャアリィとアイシャ、そして、フランシスコ、三人の身柄だ。
アレクサンドルがそれを飲めば、丸裸。
気に入らない法案は全て叩き潰せる。
そして、次に狙うは王族の支配。
アーシアン連合国を、アーシアン教皇国へと変貌させることこそがワイズリートの狙い。
それでも、アレクサンドルならば、要求を呑むだろう。
そうならなければ、全面戦争も厭わない。
「世界を敵にしても構わないね?」
と、リーシャに問えば、
「世界を壊しても構わないならば」
と、答えが返ってきた。




