ワイズリートとアレクサンドル
中央大教会付属の大教会神学校。
かつて、ワイズリートとアレクサンドルは同じ学舎の先輩、後輩の間柄。
神学、法学、経済学と三つも専攻が被れば、顔馴染みにもなる。
家柄も申し分なければ、共に学年主席。
二人の道を隔てたのは、彼らの師事する二人の教授。
アルピーヌ・シュラインとクレイン・ファルケルサス。
共に術式理論の専門家だが、一人は魔道寄り、一人は聖教寄り。
当時は未だ禁忌として悪名高い陰根源転換術式をも、シュラインは躊躇しない。
だが、ファルケルサスは、それを嫌う治癒術の専門家。
先に世に出たワイズリートは、魔道の観点を持つ天才として名を売り、早々に中央大教会の支部である、三十九番教会に司祭として任命された。
一年遅れて、アレクサンドルが卒業。
極めて優秀でありながら、活躍は目立たず、最初の赴任先であるグリーンノウズで悪党共の手荒い歓迎も屡々(しばしば)。
そして、アレクサンドルは、マーヴェリック騒動の真実を知る。
重なるように起きたのが、『廃棄の王』の幽閉。
清廉だったアレクサンドルの信仰は捻じ曲げられ、出世に拘る気質が形成された。
ワイズリートは表向き順調だが、実際はそうではない。
彼にも苦悶の日々が続いていた。
魔道というものを極めれば極める程にやりたいことは増える。
だが、己の立場を鑑みれば、それは決して許されることではなく、ただ夢想の中でのみ、様々な実験を繰り返す。
・・・
数十年の時が経ち、艱難辛苦こそあれ、二人は司教、大司教を経て、ついに枢機卿の椅子を手に入れる。
今までの歪みが解き放たれる時が来たのだ。
ワイズリートが目指したのは、無敵の術式使い。
自身がそれになるには、既に時遅く、素体探しからの着手だ。
アレクサンドルが欲したのは、権力。
それがあれば、大量殺戮さえもが思うまま。
四十代にして枢機卿の椅子を手に入れたならば、余生は余りに長過ぎる。
ならば、いっそ教皇の椅子さえも、と、虎視眈々。
既に二人には学舎で交わした言葉も、食事を共にした記憶も薄れ、その立場は政敵へと変わった。
そして、今、アレクサンドルは歯噛みする。
「『受難の聖女』だと?」
「なんだ、あの化け物は・・・お前は何をしていた?」
「私は、あんなもの知らんぞ」
「どうするつもりだ・・・」
叱咤されるフランコは、平常心。
「噂程度の信憑性であったために、お耳に入れるのもどうかと」
「私も正直、驚愕しております」
「まさか、竜を召喚し、短縮詠唱まで使うとは・・・」
「如何にドラゴン・スレイヤー達が屈強であろうと、あれでは、太刀打ち出来ない」
「最早、武力に関しては見限ったほうが得策かと」
アレクサンドルは、飲みかけのティーカップを放り捨てて喚く。
「そんなことはわかっておる!」
「このままでは最悪の結末、ワイズリートの天下ではないか」
「お前も何らかの策を用意しろ」
「さもなければ、無茶を承知で白銀と琥珀をぶつけるしかない」
「・・・待てよ?」
「あの女、リーシャ・セロニアスと言ったな?」
「白銀の血縁か?」
フランコはアレクサンドルの策謀を感じ取る。
「はい・・・」
「実の姉妹」
それを聞き、醜悪な嗤いに顔を歪めるアレクサンドル。
「囮・・・くらいには、使えるかもな」
最早、救いようもない外道。




