お披露目
アネモイの選択は極めて正しかった。
そして、フランコの迅速な動きも。
レリットランスが同盟の締結のないままに、最後の椅子を賭けて東方との論戦に挑めば、東方はラモンに強硬手段を取らせていただろう。
そうなる前に決着が着いたことは、互いの陣営にとって僥倖だった。
教皇庁は、四つの席をそれぞれ、
一、ザグレボホーン、ナセルバ同盟
二、アーシアン
三、グリーンノウズ、ウィトプラナ、レリットランス同盟
四、イルオールド
に、与え、エンダーベルトは、カルテリアルから除外となった。
こうしてカルテリアル選抜は終了し、翌日より教皇選抜が始まる。
・・・
「時は満ちた」
そう告げたのは、アーシアンの枢機卿、ショット・ワイズリート。
「本日は皆さまにとって、重要な発表があります」
「私の騎士にして、代行者、『受難の聖女』リーシャ・セロニアス・アビス」
「前教皇から『混沌』の称号を賜りし、術式使いを紹介します」
「その能力は、ドラゴン・スレイヤーをも凌駕する」
「武力を以て当方と敵対するならば、後悔なさることでしょう」
「では、その実力の片鱗、お見せしましょう」
中央大教会の広大な正面広場、黒いベールの一人の少女がワイズリートの指名を受けた。
その少女はモノクローム。
美しく手入れの行き届いた長い銀髪を靡かせる。
人形のような白い肌、細く、長い手、指先。
聖衣とは真逆の喪服のような黒い装束は髪と同じ銀色の刺繍が施され、その意匠は逆十字。
ただ、その瞳だけは、血の雫を零したように紅い。
完全な容姿に欠けたところがあるとすれば、鈍い光を放つ鋼の融合義足。
「初めまして」
「若輩者故、言葉足らず、不勉強はご容赦を」
「あまり近寄ると危ないので、私から五十歩は離れていて下さい」
リーシャは、自身の周囲に誰もいないことを確認すると、わざと詠唱を口に出して、術式を披露する。
「求めに応えし、強き魔物よ顕現せよ、其れを人は竜と呼ぶ」
「サモン・ドラゴン!」
突如、空間が歪み、膨大な魔力が溢れ、形を為す。
そこに現れたのは黒い鱗の大きな魔物、イグニス・ドラゴン。
火炎属性の最強種。
「逃げろ!ドラゴンだ!喰われるぞ!」
「騎士たちは何をしている、早く、なんとかしろ!」
そう言われた所で、動ける者は誰もいない。
「問題ありません、このドラゴンは私の制御下にあります」
「むしろ、敵対行動を取れば命がありませんので、ご静観下さい」
「本来であれば、火炎の熱気で近寄ることさえ叶わぬ竜」
「ブレス一つで、この教会の大門すら跡形なく溶かしますが・・・」
「ほら、この通り」
リーシャは、ドラゴンに近寄り、その頬を手で撫でる。
「慣れれば可愛らしいものですよ」
「勿論、私達に敵対すれば容赦はしませんが」
人々は、そのハスキーな声に恐怖する。
カルテリアルの面々は絶句し、狼狽えることすら出来ず、ただ動向を見守る。
すっかり機嫌を良くしたワイズリートが、両手を広げて演説を続ける。
「これはほんの小手調べ」
「ただのご挨拶、余興でございます」
「願わくば皆さまが、このワイズリートをご指名頂ければ、と」
「さすれば、この竜とて皆さまと我々の力」
「他国の侵略など造作もなく打ち滅ぼすことが叶います」
ワイズリートは、掌を一拍。
それに呼応するように、リーシャはイグニス・ドラゴンの召喚を解除する。
仄かに残る、火炎の熱気。
それは、ここに確かに火炎竜がいたという証。
「無慈悲な殺戮は好みません」
「是非、賢明な選択を」
そう言い残して、ワイズリートとリーシャは、群衆に背を向けた。
余りの衝撃的な光景に、一人の冒険者が撥ねる。
「あいつはいかしておいちゃいけない!」
「ここで殺さなくちゃだめだ!」
リーシャの背に凶刃が迫る。
が、それは届かない。
振り向いたリーシャが指先ひとつで、ダガーの切っ先を捉える。
「弾けろ!」
その一言で、冒険者の身体はただの血飛沫へと変わった。
瞬殺という言葉さえ生温い完全な破壊。
血の滴る指先を一舐めし、穏やかな表情で告げる。
「何度でも、何人でも、何時でも、掛かって来るが良い」
「妾はその全てを退ける」
何事もなかったかのように踵を返し、リーシャはワイズリートの背を追った。




