最悪のカード
「生臭い話は、奥でやってくれないか」
と、アレックスに叱られ、ファイヤー亭の奥、即ちアレックスの自宅の応接間を借りた。
「で、フランコ、説得とは言うものの、手土産のひとつくらいあるの?」
「あの領主さんは、金や権力には靡かないよ?」
シャアリィに言われなくとも、アネモイという人物についてはフランコもとうに調べている。
清廉潔白、初志貫徹、理想主義、おまけに頭脳明晰。
甘言を弄することなど出来るはずもない、『狼のアネモイ』。
談合や賄賂を持ち掛ければ、晒されるのは我が身。
「西方につくメリット」
「しかも、レリットランスのメリットでなきゃね」
と、アイシャも言葉を添える。
フランコが頭を抱えるのは、実にその部分。
ひとに弱みや欲があるならば、交渉は容易い。
或いは臆病者であれば、脅しに屈しよう。
だが、アネモイ・シェルフ・ザカートには、弱さも欲もない。
「だから、私じゃ出来ないんだよ・・・」
「悩ましい限りだ」
アイシャが方向を変える。
「では、単独でいる場合、或いは中央と組んだ場合のデメリットを強調する?」
「正直な所、私達は誰が教皇になろうと、カルテリアルに選ばれようと、生活が大きく変わるわけじゃないんだもの」
「単純明快、北方にだけは勝って欲しくない、それだけ」
「でも、北方が勝った所で、ナセルバ迷宮に一定の制限を掛けてくれるならば、皆、納得する話でしょう?」
フランコが、それを否定する。
「北方が勝てば・・・今度は北にグリーンノウズが生まれる、と、したら?」
「ナセルバが『不死者実験』に使われたら、どうなると思う?」
「まだ、探索も終えていない超巨大迷宮にゾンビィが溢れるんだ」
「ナセルバ全域が死都と化すんだよ」
「皆が思ってる以上に、北方が勝つというのは危険性を孕んでいる」
『ナセルバの死都化』
背中を貫く悪寒。
教皇になる者にしてみれば、冒険者の命など紙屑のようなものだ。
まだ、想像の域を出ないとしても、それは十分に考えられる。
しかし、アネモイにグリーンノウズの種明かしをするわけにもいかない。
「西方が同盟相手に選ばれない理由・・・」
「アネモイは元々中央の人間だけど、よく知らない西方と組むよりマシ、そんな曖昧な考えで決めているわけじゃないでしょう」
「私は、西方が『嫌われている』としか思えないんだけど?」
シャアリィの言うことは当然だろう。
フランコ自身ですら、グリーンノウズを嫌悪している。
「今のグリーンノウズの治世を見て、好ましいと思う人間なんていないさ」
「彼女が最も嫌う、暴力、賄賂、馴れ合いの温床」
「それでも、西方が同盟相手に相応しい理由があるとすれば・・・」
「アイシャとシャアリィがいる、から、と、しかね」
「唯一、死都というものを知っているなんて言えるはずもない」
アイシャが首を横に振る。
「アネモイならば、私達に西方を見限って、レリットランスに力を貸せというだろうね」
「俯瞰でモノを言うならば、私はレリットランスがカルテリアルの四席目を取れる可能性は高いと思っている」
「心情としても、そのほうがいい」
「何もかもアレクサンドルの謀略によって決まるより、ずっとマシだ」
手詰まり。
「ならば、最終手段を講じるしかなくなる」
フランコは、重苦しい声を絞り出す。
「流通封鎖だ」
「エンダーベルト以外の領地に対して、グリーンノウズは全ての物流を止める」
「ウィトプラナが同盟である以上、東の港からの流通も止まる」
「必然、ウィトプラナより北の都市は内産物以外の流通が完全に停止する」
「我々の持つ、最も強力なカードを切るしかない」
「それは必然、内戦への引き金・・・たかだかカルテリアル選抜で切るカードじゃない」
「それをアネモイに選ばせる・・・最低なやり方だ」
内戦の引き金を引かせるなど、正気ではない。
「だから、そのカードを開く前に、二人になんとかしてもらいたいんだ」
シャアリィとアイシャは、憤怒の形相。
「自分が何を言ってるのか理解しているのか?」
「そうなれば、ウィトプラナとグリーンノウズが戦場になるんだぞ?」
「それもアレクサンドルの意志か?」
フランコは唇を嚙むことしか出来なかった。




