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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
教皇争奪戦編
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雷鳴の如き、報せ

八月。


「アレックス、友達に手紙書きたいんだけど、ここの住所使っていい?」


と、シャアリィが仕込み真っ最中のアレックスに声を掛ける。

アレックスは快く、それを承諾。


「いいぜ、うちでよければ勝手に使ってくれ」

「ここなら、誰かしら毎日、ポスト見るから見落としもないしな」


イザベラ、ロザリー、フランコ、アンナ、ミヤマ、そしてリーシャ。

思えば、アーシアン中に散らばっている友人、知人。

一番近いリーシャと会うにしても、片道五日の旅程が必要。

そうなれば必然、連絡手段は手紙しかない。


疎遠になるには、皆、思い入れもあり、現状、住所が定まっていないのは、シャアリィとアイシャだけなのだから。

とは言え、まだ、周囲の人間には屋敷を買ったことは伏せておきたい。

ちなみに屋敷の契約住所は、レリットランスの冒険者ギルドである。

冒険者が迷宮をあがって自宅を手に入れるという話は珍しいことではないので、商業ギルドも了承済み。

前金で費用を全額入金しているのだから、連絡が付かなくなった所で、本人たちの他には誰も損はしない。


・・・


その冒険者ギルドだが、いよいよロートシルトの体調も優れず、後任が見つからないことから、暫定的に副ギルドマスターのフォンスがマスター代行を務めることとなった。

フォンスも七十才を超えているので、まさに繋ぎ処置。

現在、領主府でも後任人事を選定中とのこと。

十月には収穫祭もあり、領主アネモイを含め、領主府も多忙。


そんな冒険者ギルドの斜向かい、『黒猫のテラス』で、シャアリィとアイシャは手紙を綴っている。

新メニューのドラゴン・ラテ・セット。

エスプレッソの上にクリームで描かれたドラゴンが可愛らしい。

それに高級チョコレートが一つついて、お値段銀貨四枚・・・さすがの値段設定。

それでも、皆、こぞって注文するのだから、シャアリィとアイシャのネーム・バリューは、金になるらしい。

本人たちのメリットと言えば、毎回のようにサービス品が供される程度。

ちなみに今日のサービスは、ソーセージ入りのシナモン・ロール。

既に富豪であるシャアリィとアイシャが文句を言うことはない。


「てりゃ、えれめんたる・ばーすとぉ!」


と、シャアリィがカップの中の竜を討伐すれば、アイシャもくすくすと笑う。


「私が迅雷残花を使ったら、カップの中のドラゴンどころか、珈琲自体を零しそうだね」


アイシャもご機嫌で、シナモン・ロールを頬張る。


そこに見慣れない男が現れた。

上等な礼服を身に纏うような知り合いは、シャアリィ、アイシャにはいない。


「初めまして、ドラゴン・スレイヤー殿」

「私は、西方大教会司教ベリエル・フェデリコと申します」

「少々、お話のお時間を頂いても?」


本当ならば、『嫌だ』と、言いたい所だが、言えるはずもない。

西方の名を出されたならば、アレクサンドルか、フランコの使いなのだから。


「構わないけれど、他のお客様の邪魔にならないようにね?」


シャアリィが、渋々と受け入れると、フェデリコは二人の対面に腰を下ろした。


「近々、教皇様がお亡くなりになられます」

「手短に言いますと、教皇争奪戦が始まるのです」

「お二人には、それに際し、アレクサンドル卿にお力添えを願いたく・・・」


来るべき日が来た。

実に面倒な話。

何が、あと腐れなどない、だ。

アイシャが目を細めて、返答する。


「具体的に私達の仕事はなに?」

「殺し合いなら、真っ平御免」

「私達はもう、冒険者稼業から足を洗うつもりで、ここに帰ってきたんだ」


フェデリコは気の毒そうな顔で、


「ええ、承知しておりますとも」

「殺し合い・・・そうなる可能性も否定は出来ません」

「それでも、アレクサンドル卿は・・・お二人ならば、必ず首を縦に振ると」

「そう仰っておられました」


それが脅し文句であることは、二人にも分かる。

権力者の謀略にまんまと嵌っているという自覚もある。


「ふう」

「成程ね・・・でも、さすがに二つ返事というわけにはいかないよ」

「私達は、生憎、大切な休暇中」

「それくらいは融通を利かせなさいよ?」

「依頼は断ったりしない」


それを良い返事と捉えたフェデリコは、二人に首を垂れて礼を言う。


「有難うございます、さすがの決断の速さ」

「では、こう伝えましょう」

「動く準備は出来ている、但し、必要な局面に限り、と」


アイシャは、その答えにも納得していないが、落とし所を誤れば、即、連行されるに決まっているのだから、承諾する。


「いいだろう」

「その線で伝えてもらって構わない」

「やれやれ、教会には借りを作るものではないね」

「むしろ、本来は貸しのはずなのに」

「さすがアレクサンドル卿、と、いうことか」


シャアリィは予感する。

あの『受難の聖女』との闘いを。


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