労働は尊い
夕方のファイヤー亭。
開店と同時に押し寄せる人の列。
すぐに八割くらいの席は埋まり、全員で大量のオーダーを捌いている。
「焼き鳥を十本と麦酒」「焼き鳥五本とウイスキー・ソーダ」
「焼き鳥二十本、麦酒二つ」「焼き鳥五本、ライス・ワイン」
焼き鳥が飛ぶように売れている。
一本銅貨二十枚という価格設定が、非常に好評のようだ。
余りの売れ行きに、鶏肉を切る専用の機械と、炙り焼き専用の火鉢を職人ギルドで作ってもらい、串打ち機まで買ってしまったという。
アレックスの仕事は、具材の位置調整と炙りだけとなり、提供速度はかなり早い、が、それでも客が多過ぎる。
おまけに持ち帰りまで受けているのだから、一日千五百本用意する焼き鳥も毎日完売。
最近ではオルチェさえもが、火鉢を前にして焼き鳥を炙っている。
既に居酒屋というより、焼き鳥専門店となりつつある。
エレナが酒の提供を担当し、ナッチェは品出しと会計に走り回る。
さすがに耐えられなくなって、ファイヤー亭は従業員の募集を始めた。
「いやさ、確かに儲かってる・・・が、死ぬ」
というアレックスの要望で、ファイヤー亭は週休二日となった。
安息日と翌月曜日は連休。
そうしなければ資材の買い付けもままならない。
「早く従業員さん、こないかな・・・」
と、ナッチェは意味もなく短冊を窓辺に飾ったりしている。
・・・
「労働は尊いねぇ」
と、言いながら、シャアリィとアイシャ、エドワードがやってきた。
エドワードを奥の席に置き去りにして、シャアリィとアイシャは店の手伝いを始める。
「ラッシャアイ、注文、まだのひとはいますか?」
と、最近ではシャアリィも慣れたもの。
アイシャもエレナと場所を代わって、エレナがナッチェの品出しと会計を手伝う。
元々、頭の良い二人は、てきぱきと仕事を消化し、少しばかりの暇な時間。
「アレックス、少し休んだら?」
「私が交代するよ?」
シャアリィが炙り台の前に立つが、夏の気温と練炭の熱気にげんなり。
「これ、毎日やってたら、死ねるね?」
アレックスは、氷水を飲みながら、
「だろ?繁盛も楽じゃねえよ」
と、贅沢な悩みを吐く。
戦争のような時間が過ぎて、深夜十時を回る頃には焼き鳥は完売。
残り二時間の営業時間は、穏やかに過ぎていく。
激務から解放された黒猫姉妹は、エドワードと戯れることを許され、オルチェは麦酒を煽って笑う。
「頭使わなくて良くなった分、アタシはこっちのが性に合ってるよ」
「何より、長居する客が減って、回転率がいい」
「おまけに酒もすこぶる売れる、いいこと尽くめさ」
日付が変わると営業時間も終了。
入り口に施錠をして、身内だけの細やかな飲み会が始まる。
「おまえさんたちは、まだ、何か始めたりしねえの?」
と、アレックスに問われれば、シャアリィが答える。
「今は、こことエドワードのとこの手伝いでいいよ」
「毎日、楽しいし、ずっと冒険ばっかりだったから、世間に慣れないとね」
アイシャも言う。
「みんなの所が落ち着くまで、そうするよ」
「特にファイヤー亭の従業員募集は急務だ」
「そうでないと、せっかくエドワードの仕事が落ち着いても、エレナが忙しいままじゃ、新婚もままならないでしょ」
「誰かいい働き手はいないかなぁ」
そこで手を挙げたのがエドワード。
「うちの入院患者に、母子家庭のひとがいるんだが、そろそろ完治するんだ」
「元の働き先は解雇されてるらしいから、当たってみるよ」
「年は、俺らより少し下で、子供もナッチェより少し幼い」
「一人で留守番ってのは難しいだろうが、軽い手伝いくらいなら出来そうだし」
「まぁ、本人の希望次第だけどな」
既に指定席のようにエドワードの隣に座るエレナが、
「あの方たちなら、いいですね」
と、太鼓判を押す。




