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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
395/396

自由

アイシャの目から涙が落ちる。

ずっと泣きたかった、ずっと泣けなかった。

全てを為すまではと、ずっと、ずっと、堪えてきた。

もう、泣いてもいいだろう、と、シャアリィに問えば、


「いいよ、思う存分、疲れ果てて寝ちゃうくらいに泣けばいい」


シャアリィにしがみついて、アイシャは大声で泣く。

まるで子供の様に。

シャアリィは背中を撫でて、ずっと、アイシャが泣き止むまで抱き締め続ける。


思えば、沢山、涙を流してきた。

そして、その全てが報われた。

でも、大切な者が帰ってくるわけじゃあないのだ。


人生で言うならば、大きな節目のひとつでしかない。


たった十九年と少しのアイシャの人生は、まだ始まったばかりと言っても過言ではない。

失った友人の数だって、それ程多いわけでもない。

だが、その友人、ひとりひとりが、アイシャにとって大切だったことがわかる。


シャアリィには、少し足りない。

両親を失ったことは不幸だったけれど、それ以来、大きな喪失というものはない。

だから、アイシャ程には泣けないし、正直、悲しみの大きさがわからない。


それでも今、何もしてあげられない無力感は、きっと、ずっと忘れないだろう。

大好きな人の悲しみに自分が出来ることは傍にいるだけ。

ここからは、アイシャ自身の忘却に掛かっている。


床に転がる、敵の武具。

それを為した実感さえなく、シャアリィは思う。


魔人は、ひとの心も捨ててしまうものなのか、と。

でも、そんなことを言えば、アイシャが悲しむし、自分もやるせない。

結局のところ、現実と向かいあえば、あの日と同じ問いに繋がる。


「さて、これからどうしようか」


あの日と違うのは、とりあえず行く場所がすぐに思い浮かぶこと。


「まずは、甘味と飲み物、アルコールもいいね?」

「少し時間が経って、お腹が空いたなら割烹の店に行こう」

「その次の日には、夏用のドレスをお揃いで買って」

「派手な花束を抱えて、マッカーシー・パーティのお墓参り」

「露店のアイスクリームを食べ歩きして、たまにはクレープも摘まもう」

「それから・・・」


アイシャと目が合う。


「レリットランスに戻って、今後のことをゆっくり考える?」

「それとも、ザグレブホーンに行って、イザベラ達と宴会?」

「グリーンノウズは嫌だから、場所が決まったらフランコを誘いだそう」

「アンナの所で暫くバカンスもいいね」


戦いの中でしか生きられない少女は、もういない。

何処へでも行けるし、どんなふうにも生きられる。

失意の冬から始まった冒険は、真夏の薄暗い迷宮で終わりを告げる。


「これが自由・・・なんだね」


と、アイシャが問えば、シャアリィが答える。


「そうだよ」

「あんまりおもしろくない?」


アイシャは首を振って、


「今は面白くなくても、これからがあるよね」

「ずっと、ずっと、一緒にいられたなら」

「私は面白くなくても、これでいいって思う」


シャアリィはアイシャの言葉に、


「ずっと、ずっと、一緒に決まってるじゃん」

「絶対に、絶対に、面白くなるに決まってるじゃん」

「まだまだ、これからなんだよ」


二人は声を合わせて、


「「だって、自由なんだから」」



――― 何かを望むならば、何かを差し出さなくてはならない。


彼女たちはひたすらに強さを求め、たくさんの時間を費やした。

時には命さえ投げ出すような覚悟で、死線を越えてきた。

今日、生きていられるのは、ただの偶然と、たくさんの積み重ね。


英雄なんてならなくても良かった。


ただ、きみがそこにいれば、それで良かった。


きみが誰より愛しいから。



氷結のシャアリィ

氷結龍討伐編 終幕 ―――


長い休載を経て、やっと、氷結龍討伐編が終わりました。

再開とここまでのハイペース更新の影には、この作品に感想を下さった方への感謝があります。

更新頻度は少し落ちてしまうかも知れませんが、

次章:教皇争奪戦編でもお会い出来れば幸いです。

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