自由
アイシャの目から涙が落ちる。
ずっと泣きたかった、ずっと泣けなかった。
全てを為すまではと、ずっと、ずっと、堪えてきた。
もう、泣いてもいいだろう、と、シャアリィに問えば、
「いいよ、思う存分、疲れ果てて寝ちゃうくらいに泣けばいい」
シャアリィにしがみついて、アイシャは大声で泣く。
まるで子供の様に。
シャアリィは背中を撫でて、ずっと、アイシャが泣き止むまで抱き締め続ける。
思えば、沢山、涙を流してきた。
そして、その全てが報われた。
でも、大切な者が帰ってくるわけじゃあないのだ。
人生で言うならば、大きな節目のひとつでしかない。
たった十九年と少しのアイシャの人生は、まだ始まったばかりと言っても過言ではない。
失った友人の数だって、それ程多いわけでもない。
だが、その友人、ひとりひとりが、アイシャにとって大切だったことがわかる。
シャアリィには、少し足りない。
両親を失ったことは不幸だったけれど、それ以来、大きな喪失というものはない。
だから、アイシャ程には泣けないし、正直、悲しみの大きさがわからない。
それでも今、何もしてあげられない無力感は、きっと、ずっと忘れないだろう。
大好きな人の悲しみに自分が出来ることは傍にいるだけ。
ここからは、アイシャ自身の忘却に掛かっている。
床に転がる、敵の武具。
それを為した実感さえなく、シャアリィは思う。
魔人は、ひとの心も捨ててしまうものなのか、と。
でも、そんなことを言えば、アイシャが悲しむし、自分もやるせない。
結局のところ、現実と向かいあえば、あの日と同じ問いに繋がる。
「さて、これからどうしようか」
あの日と違うのは、とりあえず行く場所がすぐに思い浮かぶこと。
「まずは、甘味と飲み物、アルコールもいいね?」
「少し時間が経って、お腹が空いたなら割烹の店に行こう」
「その次の日には、夏用のドレスをお揃いで買って」
「派手な花束を抱えて、マッカーシー・パーティのお墓参り」
「露店のアイスクリームを食べ歩きして、たまにはクレープも摘まもう」
「それから・・・」
アイシャと目が合う。
「レリットランスに戻って、今後のことをゆっくり考える?」
「それとも、ザグレブホーンに行って、イザベラ達と宴会?」
「グリーンノウズは嫌だから、場所が決まったらフランコを誘いだそう」
「アンナの所で暫くバカンスもいいね」
戦いの中でしか生きられない少女は、もういない。
何処へでも行けるし、どんなふうにも生きられる。
失意の冬から始まった冒険は、真夏の薄暗い迷宮で終わりを告げる。
「これが自由・・・なんだね」
と、アイシャが問えば、シャアリィが答える。
「そうだよ」
「あんまりおもしろくない?」
アイシャは首を振って、
「今は面白くなくても、これからがあるよね」
「ずっと、ずっと、一緒にいられたなら」
「私は面白くなくても、これでいいって思う」
シャアリィはアイシャの言葉に、
「ずっと、ずっと、一緒に決まってるじゃん」
「絶対に、絶対に、面白くなるに決まってるじゃん」
「まだまだ、これからなんだよ」
二人は声を合わせて、
「「だって、自由なんだから」」
――― 何かを望むならば、何かを差し出さなくてはならない。
彼女たちはひたすらに強さを求め、たくさんの時間を費やした。
時には命さえ投げ出すような覚悟で、死線を越えてきた。
今日、生きていられるのは、ただの偶然と、たくさんの積み重ね。
英雄なんてならなくても良かった。
ただ、きみがそこにいれば、それで良かった。
きみが誰より愛しいから。
氷結のシャアリィ
氷結龍討伐編 終幕 ―――
長い休載を経て、やっと、氷結龍討伐編が終わりました。
再開とここまでのハイペース更新の影には、この作品に感想を下さった方への感謝があります。
更新頻度は少し落ちてしまうかも知れませんが、
次章:教皇争奪戦編でもお会い出来れば幸いです。




