イングリット・パーティの最期
反射で飛び退いたマルシェだけが、カース・シャドウを免れた。
そして、ネロが三節詠唱で視力回復する。
アイシャはマルシェを追い、シャアリィはネロの首筋にダガーを突き立てて、捩じる。
命を奪うまでには至らないが、喉を潰されては、もう詠唱は出来ない。
詠唱の出来ない聖職者など、木偶以下。
続けてシャアリィが、アイス・ブラストをぶちまける、と。
健気にもネルソンが自分の身を呈して、仲間への被弾を防ぐ。
だが、ネルソンは完全に氷結し、シャアリィがそれを無常に蹴り砕く。
「呪え!」
敵陣の中央でカース・サークルを展開。
フェイは出血、アマーリアは麻痺、アルテーアは睡眠、ゼノビアには恐慌が付与された。
双子の姉妹は床に倒れ伏し、ゼノビアは立ち竦む。
フェイだけがカース・シャドウを脱し、眼窩、鼻腔、耳、口、あらゆる穴という穴から血を溢れさせながら、風の上級術式を詠唱するが、シャアリィの短縮詠唱に阻まれる。
「壊れろ」
自身の詠唱陣が飛散する様に、フェイは瞠目、恐怖し、何度も繰り返す。
「壊れろ」
どんなに早口で詠唱しようとも、六節詠唱では間に合わない。
「化け、化け物!」
「やめろ、来るな」
シャアリィは満面の笑みを湛えたまま、素早くフェイの喉を切り裂く。
ごぼごぼと喉から血が溢れ、フェイも又、床に倒れ伏す。
ゼノビアは逃走を図るも、足が全く言うことを聞かず、狼狽える。
シャアリィと目が合い、嘆願の言葉を重ねる。
「見逃してくれ、死ぬの、嫌だ・・・頼む、何でもする・・・」
シャアリィは優しく微笑んで返す。
「だーめ」
次の瞬間にはアース・ランスがゼノビアの腹部を貫いた。
やがて、アマーリアが麻痺から解放され、すぐさま、シャアリィに襲い掛かる、が、格下のダガー使いなどシャアリィの敵ではない。
至近距離からのストーンバレットを頭、胸、腹に喰らい絶命。
アルテーアが目を覚まし、悲鳴を上げる。
既にイングリット・パーティは壊滅状態。
「ひっ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ・・・」
シャアリィは楽しそうに告げる。
「そう、これは嘘なの」
「あなたも死ぬといいよ?」
使った魔力を補充するように、サンドプリズンに閉じ込める。
「ぎゃあああああああ、いたいいたいいたい」
「い・・・た・・・・・・ぃ」
十秒すら持たず、その身体が消え失せる。
アイシャに追われながらも、その様を盗み見ていたマルシェが、消える。
シャアリィは、逃げ道を塞ぐようにカース・サークルとヴェンジェンスを詠唱し、扉に立ち塞がる。
マルシェに出来ることは、もう、残り少ない。
魔石を奪って、シャアリィを倒し、脱出するしかないが・・・
シャアリィと戦闘になれば、当然、サイレント・ムーブは解除される。
(まずは魔石だ)
その踏み込んだ場所には、アイシャが仕掛けていた罠がある。
ピスタチオの皮だ。
「パキッ」という予想外の音に驚き、マルシェのサイレント・ムーブが解除された。
その一瞬で、アイシャは最大半径の彗星棍をひと薙ぎし、マルシェの左脚をへし折る。
マルシェの元に白い死神が歩いてくる。
「やぁ、マルシェ・イングリット」
「マッカーシー・パーティの意趣返しだ」
「心配しなくても、死体は残らない」
「ほら・・・あんな感じで」
アイシャの指差した先で、シャアリィがアマーリアの身体をサンド・ブラストで磨り潰す。
「きみたち悪党には、墓標すら必要ない」
「よくもあの日、私のパーティを全滅させてくれたね?」
「そこにいるシャアリィも被害者さ」
「彼女は地獄の底から蘇ってきた」
転倒しながらも構えた双剣。
だが、その刃が届くことはないとマルシェ自身も理解していた。
「殺す気なんてなかった」
「ちょっと驚かす程度で・・・」
言い掛けた口に、アイシャが鵺斬を突っ込む。
マルシェは双剣を投げ捨て、降参の合図をした。
「公式謝罪をさせたい所だが、私の妹の立場もあるのでね」
「ここで沈黙してもらうよ」
「教会との約束を破ったんだから、当然だよね?」
そう言うと、アイシャはそのまま鵺斬をずぶずぶと押し込む。
「ごがっ、げぇえ、やべで、あっ」
残されたネロが失禁しながら、床を這う。
シャアリィがその背に踵を乗せて、
「腐れ!」
と、言えば・・・それがイングリット・パーティの全滅の瞬間だった。
面倒なことになる前に、と、シャアリィが死体を一つづつ磨り潰す。
全ての復讐を終え、アイシャの顔が晴れ晴れしたかと思うとそうではなかった。
むしろ、それは悲哀に満ちたもの。
アイシャはやっと、悲しむ自由を手にいれたのだ。




