ピスタチオ
迷宮から出て最初に向かうのは、宿屋。
返り血まみれの服は放っておけば、手の付けようがなくなる。
渇ききる前ならば、漂白剤に漬けておけば大体なんとかなる。
たらいを借りて、お湯を張り、血で汚れた衣服を放り込んで漂白剤をぶち込む。
ぐるぐると掻き混ぜれば、すぐに汚れが剥がれて中のお湯が茶色くなる。
それを二度程繰り返せば、綺麗さっぱりとはいかないものの、随分と血汚れは落ちる。
最後にもう一度、お湯をはってそこに少量の漂白剤、あとは数時間の漬け込み。
そこまでやってから、二人は出掛けることにした。
揃いの街歩き用の涼し気なワンピースを着れば、ただの少女の気分に戻る。
戦利品を冒険者ギルドに持ち込み、街歩きで使うには十分過ぎる程の金貨を得て、最近、馴染みにしている『ドラゴンフライ』というカフェテラスに入る。
シャアリィが最初に見つけ、アイシャに、
『どらごんふらいって、どんなハエ?』
と、聞いたのが始まり。
アイシャはくすっと笑って、
「ハエじゃないよ?トンボだよ」
と、シャアリィに教えた。
シャアリィがメニュー表に掛かれたトンボの姿を見つけて、
「お前もドラゴンの一味だったかー」
等と笑った。
「ウォッカ・トニックと、カシューナッツと、ピスタチオ」
と、シャアリィがオーダーすれば、アイシャも乗る。
「私もウォッカ・トニック、こっちにはソルト・ピーナッツを」
オーダーが届いて、アイシャがシャアリィに尋ねる。
「ピスタチオって皮剥くの面倒じゃない?」
問われたシャアリィが答える。
「面倒だから良いこともあるんだよ・・・食べすぎない」
と、言いつつ、シャアリィは器用にピスタチオの皮をパキパキと手早く剥く。
「そんな速さで剥けるなら、食べすぎちゃうでしょ・・・」
案の定、ナッツ類でお腹いっぱいになってしまったシャアリィ。
床に落としたピスタチオの皮を拾おうとして、誤って踏み付ける。
「パキッ」
という音と共に割れた皮が床を汚す。
シャアリィは店員に謝りながら、皮を剥いた皿を渡すが、その手をアイシャが引き留める。
「この皮、頂いてもいいですか?」
「花の肥料にしたいので」
店員は快く大きめの紙で、ピスタチオの皮を包み、アイシャに渡してくれた。
シャアリィは不思議そうな顔でアイシャを見る。
「そんなものどうするの?」
と、アイシャに問うが、
「ここでは実演出来ないから、外に出たら教えるよ」
と、はぐらかされた。
・・・
先程の予告通り、店から出るとひとつ路地裏に入り、そこに先ほどのピスタチオの皮を二つ、三つ転がす。
瞬間、アイシャの気配が薄くなる。
どうやら、気配遮断を使用しているようだ。
そして、ピスタチオの皮の上を歩く。
「パキッ」っという先ほどと同じ音。
シャアリィはそこで気付く。
アイシャがにやりと笑って、無言で頷く。
・・・
残り九つの玄室。
どう足掻いても、勝負が着くまでに数日。
アイシャが提案したのは、
『一日一室』
随分と面倒な話だが、ここ数日冒険者ギルドでの顔触れを見る限り、自分達以外に迷宮踏破が叶いそうなパーティはいない。
ならば、徹底的に焦らせるのは実に面白いと、アイシャは思った。
シャアリィとアイシャが動けば、イングリット達も動かざるを得ない。
初日から当たりを引く可能性もあるが、それはそれで結構。
ここまで焦らされて、まだ、計画が破綻していないなら、その根性は大したものだ。
日の出から、日暮れまで、二人を付け回すだけでも、相当にしんどいだろうに。
以前、アイシャはシャアリィをサディステックだと言ったが、アイシャも相当だ。
アイシャは敵には本当に容赦がない。




