破滅に向かって
体力は回復しても、ストレスまでもが回復するわけではない。
小休止し、魔力、体力には問題はないが、その思考は鈍い。
「シャアリィ、正解のルートがわかったんだ」
「今日は戻るとしようか?」
アイシャの提案に、シャアリィは一考する。
もう少しだけ、通路の形状を確かめるだけ、別に拘りがあるわけではないが。
「せっかくだから、中央の形状だけでも確認しない?」
「玄室には入らずに」
珍しくアイシャの提案にシャアリィが異を唱えるならば、何か意味があるかもとアイシャはそれを承諾した。
「見た目、玄室の残りは九つ」
「あれ、なんだろう?」
アイシャが指差した場所にあったのは、白く磨かれた石の大きな台座。
台座と言えば魔物を召喚するための装置だ。
少し離れた場所にも、壁や床の色と同じ小さな台座もある。
アイシャは危険を感じた。
これはレリットランスで見たものと似ている。
この迷宮はまだ踏破前で生きているのだから、当然、この台座から新たな魔物が顕現してもおかしくはない。
特に白い台座は、恐らく特別な魔物を召喚するためのものだ。
しかし、おかしいのは待機用の台座がないことだ。
せっかく魔物を召喚しても、これではこの場所に留めて置くことが出来ない。
それに・・・台座があるにも関わらず、それ程精霊の密度が濃くない。
シャアリィが一つの仮説を出す。
「あの白いのって、フローズン・ドラゴンのじゃないかな」
「大きさも一致するし、白いっていうのが怪しい」
「んで、小さいほうが徘徊する魔物の召喚用かも」
アイシャも、その仮説が信憑性が高いと感じた。
「成程、これなら玄室を開けるリスクを冒さずとも、ドラゴンを引き摺り回せるね」
「恐らく、こそこそと隠れながら、このへんをマッピングしてる最中に見つけたのか」
「マッカーシー・パーティよりも、マッピングだけは進んでいたようだね」
「でも、マッピングが出来た所で、七階層の玄室を開ける勇気はなかった、と」
「否、恐らく六階層すらイングリット達にしてみればキツい」
「絡繰りの答え合わせが出来て、ちょっと、スカっとした」
アイシャはそういってシャアリィの頭を撫でる。
用は済んだとばかりに、踵を返し、今日は探索を終えることにした。
今日の戦闘で使った玄室は、融合個体の玄室を除いて、全てシャアリィのサンド・ブラストで清掃済み。
イングリット・パーティが魔物の骸を漁るならば、腐肉に手を突っ込んで、小さな魔石を探すくらいしかない。
それを思うと、アイシャは少し気分が良い。
「まぁ、せいぜい、付け回せばいいさ」
・・・
シャアリィとアイシャがフロアから消えるのを確認したイングリット・パーティが、融合個体の部屋に侵入する。
その瞬間、鼻を衝く異臭。
玄室の中にあるのは、原型を留めていない腐肉と、ごちゃまぜになった複数の魔物の切れ端。
小さな魔石が六個。
何がいて、シャアリィとアイシャがそれをどんな風に片付けたのか、まるで見当もつかない。
わかるのは、異常なまでの殺戮を為しても、シャアリィとアイシャには傷ひとつなく健在だったことくらい。
フェイが鼻を摘まみながら、ネルソンに銘じる。
「使えそうなものがないか、丁寧に探せ」
ネルソンは嫌な顔をしながらも、フェイの言い付けに従う。
癇癪持ちのゼノビアが、腐肉を踏み潰しながら悪態をつく。
「こんな嫌がらせしやがって、くそがっ!」
アルテーアが、マルシェに尋ねる。
「姐さん、無礼を承知で聞くけれど、あいつらと本当に殺り合うのか?」
「こんなの普通じゃない・・・私は恐ろしい」
アマーリアもそれに頷く。
マルシェは、アルテーアを優しく見つめて、答える。
「じゃあ、どうするのさ?」
「踏破を諦めて、あのスラムへ戻って、コソ泥の頭目にでもなるかい?」
「それとも、ジルノワールあたりで盗賊団でもやるかい?」
「これは一世一代の大勝負、わかってるだろ?」
アマーリアがマルシェの耳元で囁く。
「私達と姐さんだけなら、他の迷宮に行けば食うには困らない」
「足手纏いを切り捨てて出直すって手も・・・」
マルシェがアマーリアの頬を平手で軽く打つ。
「悪い子だ」
「私も悪党だけど、仲間を捨てるなんてのは許さないよ」
「出て行きたいなら出て行くのは勝手」
「私はね、そんなつもりで行き場のないお前達を拾ったんじゃない」
「わかっておくれよ、アマーリア」
意外にもマルシェは情に厚く、身内には優しい。
しかし、そんな理想だけで戦える相手ではない。
それを思い知らせるのには、十分な仕打ち。
この殺し方を見れば、誰だって脚が竦む。
マルシェ自身もそうだ。
崩れそうな膝を抑え、
「殺ってやるさ」
と、吐き出すのが精一杯だった。




