失敗作
融合個体は人造の魔物であり、生殖機能もなければ、ルームガーダー以外の用途もない。
それが生き残っているということは、この玄室に入って生き残った者がいないことを意味する。
「シャアリィ、後先考えなくていい」
「今はこの魔物を倒すことだけを優先しよう」
アイシャに言われるまでもなく、シャアリィは全開で戦うつもりだ。
「出て来い!」
クリエイト・クリーチャーで呼び出されたのは、トルネード・ハウンドを思わせる二本首の黒い肉食獣。
「敵の攻撃を躱しながら、触手の武器を喰い千切れ!」
シャアリィが命じると、融合個体にも劣らぬ醜悪な声で、クリーチャーが吠える。
そして、
報復を!
ヴェンジェンスを纏い、被弾に備えたシャアリィが準備万端で戦列に加わる。
融合個体は、アイシャ目掛け鎌のような触手を振り下ろす。
アイシャが躱すと床に勢いよくそれは刺さり、石の破片が散らばる。
シャアリィは逆の側面から、アイス・ランスで背中を狙う。
その攻撃を避けようともせず、ただ、背中についている顔はぎょろぎょろと目玉だけを動かす。
そのうちの二つを潰し、背中にアイス・ランスが突き刺されば、融合個体の背中が氷結した。
重ねるようにシャアリィのアース・ランス。
前方では、アイシャが鵺斬一本で複数の触手の攻撃を凌いでいる。
「イタァアアアアアアイヨオオオオオオ、ヤヤヤヤメエテエエエエエエヨオオオオオオオ」
不気味に響く融合個体の悲鳴に吐き気を催しながら、アイシャの鵺斬が融合個体の前脚を奪う。
背中の顔たちも呼応するように、別々の声色で悲鳴や嬌声を挙げる・・・。
「げひぇえええひぇひぇひぇいぇえ」
「ぎょぎょぎょんんんぐげれれ」
「きぇえええええええええええ」
切り刻む度、身体を穿たれる度、バンシィなど赤子でしかないような怨嗟の悲鳴が響く。
「煩い!煩い!煩い!早く死ね!すぐ死ね!」
余りの不快にアイシャが髪を振り乱して、前のめりに崩れ落ちる融合個体を切り刻む。
「タアアアスケテエエエエエエ、ジンジャヴウウ、イダダダダダイイダイイタイ」
アイシャの居合が融合個体の首を落としても、尚、背中の顔達の怨嗟は止まらない。
「じねじねじねじえじぇぇじえぇええ」
アイシャの身体を汚す返り血は、赤い・・・何故・・・?
ただ、たんに玩具にされただけのイキモノなのか?
そう考えた所でもう遅い。
救う方法なぞ存在せず、唯一の救済があるとしたならば死の安らぎ。
シャアリィの作り出したクリーチャーが触手を食い散らかす。
余りの醜悪さに我慢できなくなったアイシャが、慈悲の絶技の名を告げる。
「迅雷残花!」
残った前脚が切断され、立ち上がった胴を横一文字に斬れば内臓が飛び出し、移動力を奪うべく右の後ろ脚をもがれ、背中の顔の半数を削ぎ落し、
大上段に構えた最後の一撃は、融合個体を正面から真っ二つに切り裂く。
終わってみれば、反撃らしい反撃もない、一方的な殺戮。
既に骸に近い身体にシャアリィが触れ、
「腐れ!」
と、致命の腐敗を告げれば、傷口を起点に爆発するように弾け飛ぶ融合個体。
魔術的結合が複雑に絡み合った身体では、原型すら留めることも出来ない。
アイシャは嗤う。
「これを見たら、イングリットの連中は腰を抜かすだろうな」
アイシャの背中の向こうで、クリーチャーは役目を終え解けるように消滅し、ただの腐肉の塊へと変わった融合個体からは、悪臭が漂う。
何時もならば大きな魔石がころりと転がるはずなのに、この融合個体の魔石は酷く小さなモノが複数。
何を以て成功と呼ぶかはわからないが、恐らく、この融合個体は失敗作だったのかも知れない。
そう思うと、少しばかり哀れに思うアイシャだった。
こんな姿で、何十年、何百年も、迷宮に封印されていたならば、まともではいられない。
つくづく、魔道とは業が深い。
シャアリィは、息絶えた女の顔の見開いた目を閉じさせて、
「きみとはちょっと常世でも乾杯したくないね」
「悪いけれど、縁はここまでだ」
等と、冗談を言った。
しかしながら、この戦いで消耗した魔力は大きく、この惨劇の場で休憩を取らねばならないことに気付けば、
「これで凌ぐしかないか」
と、チョコレートをアイシャに放り渡し、アイシャは涼しい顔で、
「呼吸法、練習してみる?」
と、自身はそれほど苦ではないと笑って見せた。




