マッピング
久しぶりに更新された七階層のマップ。
だが、現時点で他のパーティに公開するつもりはない。
既にボス部屋へのルートは七つに絞られた。
一日一つを攻略出来れば一週間でボス部屋に辿り着く。
ボスを倒すだけの実力があるパーティならば、ここから先は少々無茶をしてでも喰らいついてくるだろう。
「通路の敵が厳し過ぎて身動きがなかなか取れないよ」
半ば嘘の報告をアイシャが平然と受付嬢に話す。
七階層に一度でも潜ったパーティならば、納得するような嘘だ。
皆、そう簡単に七階層を突破できるものかと、タカを括るだろう。
「体力回復剤を少しばかり融通してもらいたい」
アイシャがそう申し出れば、その信憑性はさらに高まる。
受付嬢は使用上の注意を丁寧に説明し、濫用しないようにと付け加えた。
体力回復剤・・・その成分の多くは単なる水。
そこに薬効成分と溶け込ませ、特殊な植物から取れるエキスを加える。
特殊な植物とは、いわゆる麻薬の類。
体力の一時的な回復は、自身の体力の約二割と痛みの軽減、集中力の増加。
だが、その半日後には反動がある。
全身を襲う倦怠感と発熱、嘔吐。
その際に、また体力回復剤を服用したくなる依存性。
少しばかり黄色く濁るこの水は多くの廃人を作り出してきた。
いわゆる禁断症状・・・それが酷い。
推奨される使い方は、瀕死の重傷を負ったパーティメンバーへの処方。
撤退の際に用いられるのが通常の使い方だ。
冒険者ギルドでも、週に一人一本という厳密な規制。
当然ながら価格も高い・・・金貨一枚。
稼ぎの少ない冒険者が、こんなものを常用すれば破産間違いなしだ。
・・・
最初のルート。
これもマッピングしやすいように、左回りの順に選ぶ。
通路を左に一回右に一回で玄室に突き当たる。
ルームガーダーは、ラミア三体・・・外れ。
二つ目のルートも同様に三度程通路を曲がればそこは玄室。
ルームガーダーには、大量の幽霊・・・外れ。
道を戻ると左右からの徘徊者と遭遇。
シャアリィが左側の通路をアイス・ウォールで封鎖、右側からきたポイズン・ジャイアントをアイシャがウインドブラストで迎撃、そこにさらにシャアリィのアイス・ブラスト。
右側を仕留めた後、その通路にアイス・ウォールを張ってから、アイシャが左の氷塊ごと凍り付いたタウロスを粉砕。
三つ目のルートに移動する。
三つ目のルートに玄室はなく、それはそのまま四つ目のルートと直結。
五つ目のルートを前に、アイシャが溜息をつく。
「余程、籤運が悪いみたいだね・・・集中が切れる頃だから、気を取り直して慎重に行こう」
その余裕が幸いした。
二歩踏み出したその先、三歩目の床は鈍く光っている。
「シャアリィ、止まって」
「これはまずい罠だ」
「二択だが、どちらもヤバい」
「テレポーターか、アラートだ」
迷宮で最悪の罠・・・テレポーター。
移動陣のエネルギーを意図的に暴走させ、無茶苦茶な座標に冒険者を転移させる。
踏めば、何処に飛ばされるかわからないばかりか、最悪、壁の中に閉じ込められ即死する。
もし、この先にボス部屋があるとしても、これを踏むわけにはいかない。
二人は五つ目のルートを放棄し、六つ目のルートに進む。
そのルートは左右に一度づつ曲がり、中央のエリアに続いていた。
アイシャは振り向き、シャアリィに確認する。
「これが当たりのルートだとは思うけれど、一応、先に七つ目のルートを試そう。
最後に残ったルートは、やはり、玄室に繋がる通路だった。
「玄室が二つ繋がっているケースもあるし、先にこの玄室から確認しよう」
アイシャが扉を蹴破ると、見たこともない魔物がいた。
その魔物の姿は悍ましい。
融合個体!
女の頭を乗せているのは太った馬の身体、脇腹からは武具と融合した触手を生やし、それだけならばまだしも、まるでゴミの塊のように様々な魔物の顔が所狭しと背中に並ぶ。
一体何種類のものが混ぜられているのか、見当もつかない醜悪な魔物。
誰も見たことがないだけで、その魔物から発せられるオーラはネームド級。
生理的に拒否感を感じる。
それが突如喋った。
「ハハハジメメメマシテノオキャククサママ、ユッククククリリシテテテテイッテネエエエエエエ」
「ジャアアアア、オモオモオモテナシ、スッススススルネッ」
震える声で何を喋っているのか聞き取れないが、戦闘は避けられないようだ。
シャアリィが後ろ手で扉を開こうとしたが、
「魔力ロックされてる!」
「殺るしかない」
それを聞いたアイシャが、
「くっそ、こんなやつがいるなんて!」
と、歯噛みしながらも、その顔は獰猛に嗤う。




