真綿で締めあげるように
「くそうっ、あのアマッ!」
憤るゼノビアが麦酒の木製ジョッキをテーブルに叩きつける。
普段ならば、うるせえと怒鳴って咬み付くフェイもだんまりだ。
今日の出来事は、それほどまでにイングリット・パーティを苛立たせた。
「前は竜の骸すら放置してたくせに、今回は、総浚い」
「金目のものは何一つ残しゃしねえ」
素材剥ぎに、少なからぬ期待を持っていただけに不満は大きい。
「一日、後を付け回して、何ひとつ手に入らないなんて」
ネロも又、首から下げた銀枠純金十字をいじりながら、愚痴を吐く。
ただ一人ネルソンは状況を飲み込めていないのか、食欲のままに料理を貪る。
ここはイングリット・パーティが隠れ家にしている場末の酒場。
看板さえあげていない、ならず者の溜まり場。
その一番奥のテーブルで、一味が管を巻く。
「辛抱する時は辛抱だよ、姐さんに心配掛けるようなことを言うな」
アマーリアが、茶髪を搔き毟りながらも皆を諫める。
アルテーアも、同じように振舞いながら、
「しょっぱい暮らしがしたいならば、パーティから出ろ」
「我々は大物を追っているんだ、辛抱しろ」
と、不満を口にしたメンバーを恫喝する。
マルシェは、余裕の笑み。
「アルテーアの言う通りさ」
「何ならパーティを二つに分けて、浅層で狩りをするチームと、追跡チームにするかい?」
「だが、それをすれば踏破の瞬間に少数であの化け物共に挑むことになるよ?」
「明日、明後日にも金がなくなるってわけじゃないだろう?」
「何をビビってるんだい?」
リーダーの貫禄か、皆、黙る。
「この迷宮の踏破賞金は金貨三千枚」
「七人で分けたって結構な額じゃないか」
「パーティを解散したって、一人で生きていける金が手に入る」
「それまでの辛抱じゃないか」
マルシェの思惑は少しばかり、メンバーよりも深い。
(あの二人と正面から戦えば、私達は塵屑のように蹴散らかされる)
(ネルソンが盾になり、アマーリアとアルテーアが左右から奇襲、ネロは後方待機)
(フェイとゼノビアで遊撃を仕掛け、その間に距離を離した私がサイレント・ムーブ)
(背後から近づき、片方を仕留める)
(あとは運任せ・・・か)
(分のいい勝負じゃないねぇ)
イングリット・パーティは、平均レベル百そこそこ。
リーダーのマルシェはレベル百四十に近いが、それでもシャアリィよりも低い。
七階層で狩りをするならば、通路でしか戦えない。
だからこそ、他のパーティに寄生するのだ。
元々は、皆、はみだし者。
それをマルシェが纏め上げただけ。
しかし、それ故にマルシェに対する恩義や信頼は絶大だ。
特に顔の似ていない双子の姉妹は、マルシェには盲目的に従う。
「例え丸一月だろうと、食らいつくんだよ」
「私達が人生を変えるにはそれしかないんだ」
「ナセルバに飽きた連中が此処に戻って来る前にカタを付ける」
昨今、ナセルバの下層領域は、人で溢れ狩りにならないと言う。
そんな状況では中層に行けるようなレベルアップもままならない。
快適な狩りが出来るのは、中層でも十分に活動できる者だけ。
そこでアーシアンに出戻りしてくる者がちらほらと増えた。
しかも、先日の龍殺しで深層への扉が開いたと勘違いしている者も多い。
イングリット・パーティの主戦域である五層も、人が増えてきたのだ。
前門の虎、後門の狼。
窮地に立たされているのは、シャアリィとアイシャではなく、イングリット・パーティ。
だが、その命運が尽きるのは、もう少し先の話。




