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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
386/399

空振り

五つ目の玄室の向こう側、通路が右に曲がっていることを二人は確認した。

玄室の探索の前に通路の先を見渡すと、今通ってきた通路とそっくりそのままの様子。

アイシャはシャアリィに、


「思い込みは厳禁だが、どうやら七層は正方形に近い形をしているようだ」

「一辺に、玄室が五つ・・・それを外周にすれば玄室の数は十六」

「経験からして、外周部に『当たり』はないだろう」

「まぁ、それでも虱潰しにするんだけどね」


シャアリィは頷き、


「作戦行動、戦術はアイシャの担当」

「私は群れの間引きと殲滅」

「アイシャの思うように進めるといいよ?」


見落とすよりはマシだとばかりに、二人は外周通路の玄室を叩く。

そして、悉く、ルームガーダーを撃破。

左廻りの周回を終えて、最初の位置、つまりは六層への階段に戻ってきた。


「さて、折角だから魔石を回収しに、もう一周しようか」


という、アイシャの顔には、謀略の嗤いがある。

シャアリィは、アイシャの考えていることまでは分からないが、何かしらの罠を張っていたことに気付く。

通路に転がる骸は、ほんの僅かに溶け出し崩れつつある。

それは迷宮による分解作用。

凡そ一日と少しで、魔物の骸は放置された魔石ごと完全に分解される


地上ならば、獣や虫によって食い散らかされるのだが、迷宮の中では喰種やゾンビィ、肉食、雑食性の魔物が掃除屋(スカベンジャー)だ。

それらの魔物は低層、中層域には多いが、下層には少ない。

つまり、七層で迷宮の分解速度よりも早く、魔物の骸が崩壊しているならば、他のパーティによる素材剥がしが濃厚となる。


今の七層は、経済状況の芳しくないイングリット・パーティならば、喉から手が出る程欲しい素材が、通路にも玄室にも転がっている状況、と、いうわけだ。


シャアリィとアイシャは、手早く骸を抉り、魔石を回収してゆく。

魔石の回収が終わると、シャアリィがサンド・ブラストで骸を磨り潰す。

無駄な魔力の消費だが、イングリット・パーティに素材が渡るなら、こういう嫌がらせをするのは面白い、と、シャアリィは笑う。


この階層で二十以上の魔石を集めれば、その額は金貨六十枚。

素材だけでも、金貨数枚は稼げる。

元々、自分たちが倒した魔物なのだから、磨り潰そうが素材を破壊しようが罪悪感などあるわけがない。


アイシャは心の中でほくそ笑む。


自分たちの追跡ばかりをしていれば、イングリット・パーティは干上がる。

そのうちにリーダーの言うことを聞かないメンバーだって出るだろう。

特にセロニアス崩れのゼノビアは、堪え性がない半端者だ。

全く実入りがなければ、踏破する前に襲撃を提案するかも知れない。


「このまま順調に探索が進めば、残る問題は二つ」

「強力なルームガーダーを引く可能性」

「そしてボスがとんでもなく強い場合」


シャアリィが言う。


「ここのルームガーダーはいちいち魔力ロックするから厄介だよね」

「最悪、ボス部屋も?」


アイシャは少しばかり憂鬱な顔で、


「当然、そうなるね・・・初見殺しの敵じゃなければいいんだが」

「用心深く、玄室に入らず、外側から通路に引き出すという方法はあるよ」

「でも、そうすれば、もっと厄介な問題があるでしょう」


シャアリィにも、それは理解できる。


「徘徊してる魔物とバッティングすれば、かなり面倒」


アイシャが小さなため息をついて、


「そういうことだね」

「だから、意地でも玄室内で倒す方がいい」

「あまり頼りたくはないけれど、体力回復剤が必要かもね」

「あれは常習性がある麻薬みたいなものだから、あまり手を出したくないね」

「使い過ぎれば廃人になりかねない」


種も仕掛けもない奇跡なんてのは、この世界では術式くらいだ。

否、多分、術式にだって種や仕掛けがあるのだろう。

人間たちにまだその理屈が未解明というだけで。


七層探索の初日。

その成果は外周部のマッピングと、僅かな魔石。

二人が求める成果としては、これでも十分。


反面、今も壁の影に潜んでシャアリィとアイシャを伺っているイングリット・パーティは、全くの空振り。


但し、こんなものは、アイシャの報復の利息程度。

じわじわと(くび)り殺す。


アイシャの殺意の目が光る。


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