地図の編集と討伐報告
アイシャは宿で、新しい方眼紙に今までの地図を書き写す。
それは新たな迷宮探索の始まり、未踏破領域への挑戦の最初の仕事。
シャアリィは、それを眺めながら料理本を読む。
手伝いたいが、抜け、見落としがあれば死に直結する慎重な作業だけに、アイシャに任せるしかない。
シャアリィに出来ることは、出来上がった分と、従来のものを丁寧に比較して、誤差がないかを確認する作業。
至極、地道。
アイシャは地図を作りながら、マッカーシー・パーティでの冒険を振り返る。
自分だけが未熟で、ただ後ろからつき従っていただけの頃から、少しづつ迷宮というものを覚え、様々な発見、経験に心を躍らせた日々、腕前を認められて前衛に加わった時の喜び。
地図には記されていない一つ一つの思い出が、蘇る。
彼らは仲間であると同時に、迷宮探索の師匠だった。
その彼らが残してくれた、たった一つの財産。
それを継承し、完成させるのはアイシャにとって一つの願望だ。
だが、迷宮を踏破すれば、未踏破部分に拘る必要はない。
一区切りした所で、シャアリィとアイシャはマッカーシー・パーティへの報告とカフェテラスに行くことを決めた。
「大きな花束、真ん中には白い大輪の薔薇を」
と、アイシャが言うと、シャアリィが言葉尻に、
「赤い大輪の薔薇も真ん中に混ぜて下さい」
と、付け加えた。
三度目の花束は、夏の花をこれでもかと詰め込んだ最高の出来栄え。
多分、こんな大仰な花束は、あと一度だ。
「少し遅れてしまったけれど、今日は最大級の報告だよ」
「私とシャアリィは、遂にあの竜を討伐したんだ」
「アレは本物の化け物だった」
「危うく死にかけたけれど、誓いは果たしたよ」
「今日は、もうひとつ」
「みんなが達成出来なかった迷宮踏破」
「私とシャアリィが成し遂げる」
「そして・・・」
『こんな目に遭わせた奴らを鏖殺してやる』、と、言い掛けて黙る。
大切な墓標に手向ける言葉としては、まだ、早い。
アイシャはそう思ったのだ。
「へへへ、殺りましたよ」
「物騒な話で申し訳ないけれどね、アイシャがちゃんと仕留めたよ」
「約束通り、彩りの赤い薔薇」
「今更だけど、常世での酒盛りには私もちゃんと入れてよね?」
「まだ、ずっと先の話だけれど」
シャアリィは、そう墓標に語り掛けた。
集中した作業で食事をろくに取っていないことに気付き、
「さぁ、脳みそにも、心にも、エネルギーは必要だよ?」
「報告も終わったし、パンケーキとアイスコーヒーでドーピングだ」
シャアリィがそう言えば、アイシャも、
「それは実にいいアイデアだね」
「私達に今必要なものは、まさにそれだ!」
と、背筋と両手を伸ばして空を見上げた。
「今日も暑くなりそうだね」
「早い所、机の上の仕事は片付けて、涼しい迷宮に潜りたいものだ」
避暑地代わりに迷宮を使うというアイシャの問題発言をシャアリィが笑う。
「まぁ、あのゾンビ迷宮じゃなきゃ、私もそれがいいと思うね」
「でも、別に迷宮じゃなくても涼める所は沢山あると思うんだけどさ」
仕事の続きがあるだけに、さすがにアルコールを飲むわけにはいかない。
こんなに暑い日には、冷えた麦酒に限るのに。
ザグレブホーンならば、少しはマシなのかな、と。
アイシャの頭に過ったのは北の友人たち。




