竜殺しの偉業
フローズン・ドラゴン
アース・ドラゴン
テンペスト・ドラゴン
イグニス・ドラゴン
亜種を含めれば、相当の種類が存在する。
ファイヤー・ドラゴンや、ウォーター・ドラゴン、ハリケーン・ドラゴン、ダート・ドラゴンのような二級竜。
成れの果てである、ドラゴン・ゾンビィ。
それらを倒すことですら、簡単ではない。
総じて言えることは、単独でありながら、通常の冒険者を全く寄せ付けない強さ、強力なブレス、魔法耐性、無尽蔵とも言える体力、属性術式の数々を備え、朽ちる際には呪いを残すものもいる。
最強と呼ぶに相応しい魔物たち。
討伐は遥か昔のたった一度、百名もの人海戦術の果てに掴んだ勝利。
それをたった二人で討伐するなど、前代未聞。
そもそも、名有りを一つ倒すだけでも、百年単位の出来事なのだ。
シャアリィとアイシャの竜討伐は、教会の早馬の速度でアーシアン中に知らされた。
西方でアレクサンドルは驚嘆の後ににやりと嗤い、その傍らで大司教となったフランコもまた、小さな拍手をした。
エンダーベルトでは、アンナの拍手喝采、偉業の傍らに自身の杖があったことを誇る。
フェザーエリスでは、セロニアス達が瞠目し、棟梁、長兄でさえもまんざらでない様子。
イルオールドでは、ミヤマの屋敷で晴れの食事が供され、刀剣の使用者を称え、冒険者ギルドでは悪夢のような日々を振り返り、冒険者達が、まぁ、仕方ねえけど喜ぶか、と、酒を酌み交わした。
レリットランスの面々は、シャアリィとアイシャの無事を喜び、ファイヤー亭が一晩限りの飲み放題、ロートシルトは顎髭を梳かしながら、二人の遺した言葉を噛み締めて、『黒猫のテラス』では、ドラゴン・スレイヤー・フェアでチョコレートが半額になる。
ザグレブホーンでは、イザベラとロザリーが思い出を語りあい、アンソニーが届かなかった思いを振り切るように長弓の鍛錬をする。
そしてアーシアンでは、リーシャが自分のことのように喜び、ワイズリートが新たな巨星の偉業に策謀を巡らせる。
『ドラゴン・スレイヤー』
その響きは、全ての冒険者の憧れのようなもの。
英雄の象徴であり、畏怖の対象。
たった二人の年端もいかぬ少女がそれを成したならば、と、多くの者が自分を鼓舞する。
その陰もまた大きい。
鬱積と逆恨み、羨望と嫉妬、自虐と八つ当たり。
自分が上手くいかないのは、持って生まれた星に恵まれなかったと酒場で管を巻く連中。
そんなことは自分には全く関係ないと言いつつも、嫌悪する弱者。
澱み、濁り、腐る、腸の中の感情。
それらの視線を一身に受けるシャアリィとアイシャ。
まともな神経ではいられない、が。
そもそも一度殺されかけた相手に数年を掛けて報復するなど、端からまともではない。
誰の思惑がどうであろうと、次に目指すのは迷宮踏破。
そして、その時が報復のフィナーレだ。
丸一週間の休息を挟み、遂に二人は未踏破領域へと踏み込む。
未だ見ぬ迷宮の通路、玄室には、さらなる竜が潜むとも噂されるが、その真偽さえも定かではなく、構造上七層が最下層という見立てすらも裏切られる可能性もある。
敵は魔物だけではない。
否、敵を仕留める為に、この罠を仕掛けるのだ。
そして、それを成した暁こそが、
『本物の自由』
それに至れないのならば、手に余る金貨も、洗練された武具も、いらない。
沢山の命を摘んできた。
魔物も、人も。
敵対者であれば、容赦なく、関係なく、遠慮なく。
最後の扉を抉じ開け、そこにいる最難関の魔物を倒してこそ、その命も報われる。
今はただ、この微睡と愛しい者との戯れが全て。
ただ数日だけの幸せの満喫。
そして、また、迷宮へ。




