ドラゴン・スレイヤー
神様でも叶えられないことは山程ある。
否、神様が叶えてくれることなんて、ない。
願いを叶えるのに必要なものは、
『金』
聖職者ですら、口にする。
神の名の元に金銭を教会によこすならば、『浄財』であると。
それによって罪の一部は贖われると。
教会直下の治癒院は、言わば金持ち専用とも言える。
シャアリィとアイシャは、そこに向かい治癒を受ける。
金さえ積めば世は事もなし、手配書の回った犯罪者でもない限り断られることもない。
「腕のいい方をお願いします」
と、最初の受付で献金盆に金貨を乗せれば、話は早い。
それ程待つこともなく、立派な治癒室に通されて、上級術師が飛んでくる。
「自覚症状に関しては、少し曖昧なので、一番良い術式でお願いします」
そう言って、アイシャが小袋一杯の金貨を見せれば、治癒師も心得たもの。
フランコのエンジェリック・ヒールとまではいかないものの、最上級の術式であるエグゼ・ヒールがシャアリィを癒した。
「あら、さすが」
その効果はやはり強力。
倦怠感は失せ、耳鳴りは病み、快眠後の清々しい気分同様の絶好調。
シャアリィは上機嫌だ。
「神の導き、思し召し、貴方の浄財に感謝を」
と、言いながらアイシャから小袋を受け取り、神の使徒たる上級術師は足早に去る。
・・・
「一回のエグゼ・ヒールで金貨二十枚は、ちょっと、多かったかな」
と、アイシャが笑えば、シャアリィも同じように笑いながら、
「浄財、浄財、アンナも言ってたじゃん、あの世までは持っていけないよ?」
「私、ちょっと偽善って好きだな」
シャアリィが満足しているならば、アイシャにとって無駄遣いではない。
教会から出た、その足で冒険者ギルドに向かう。
リーシャにも会いたかったが、夕暮れ近い時間では、向こうも何かと不都合だろう。
少しばかり後ろ髪を惹かれながら、通りを歩く。
真夏の石畳の照り返しは、少々、厳しい。
堪らず寄り道したのは、何時ものようにアイスクリームの露店。
「こういう日はシャーベットだね」
と、シャアリィは今が旬の葡萄のシャーベットを選んだ。
アイシャはそれを横目にシェアする前提で、定番のバニラを選ぶ。
時折交換しながらの食べ歩き。
ほんの数刻前、死闘を繰り広げたことなど、忘却の彼方。
「パンとバニラって似てるよね・・・食べ飽きない所とか」
と、シャアリィが言うと、アイシャも頷きながら、
「私は最近、ライス党になりつつあるよ」
「ミヤマの屋敷の食事といい、エンダーベルトのうなぎといい」
「アンナの作ったスパイス・スープも、ライスだったからね」
他愛ないお喋りをしつつ、冒険者ギルドに着く。
そして、フローズン・ドラゴン討伐成功を告げ、魔石を披露する。
「・・・もう、絶句ですね」
「この魔石どうされますか?」
「素の売却より、鑑定してからの売却をお勧めしますけれど」
と、受付嬢に問われれば、
「術式が封印されているなら、それ次第」
「お金には余裕あるから、売却か使用かは結果で決めるね?」
と、シャアリィが鑑定依頼。
では、と、受付嬢は手早く預かり証を発行する。
ドラゴン・スレイヤー。
為してみれば、随分とあっさりしたものだ。
フローズン・ドラゴンには討伐依頼も、討伐報酬もない。
あるのはただ名誉だけ。
それでも、アイシャにとって特別な称号であることには変わりない。
「お前、ドラゴン・スレイヤーにでもなるつもりか」
ランドウの言葉に応えることが出来たのだから。




