フィーネ(終曲)
冒険者達が得る『スキル』とは、その者の素質と、それまでの経験、願望によって選ばれるらしい。
この黄金のオーラは、死の淵からでも何かを成す為に立ち上がる者に与えられる願いの具現。
全身の傷を完全に修復し、体力、魔力までもが全回復。
超常の回復スキル、
『リバイバル』
まるで眠りから覚めるように、身体をゆっくりと起こし、瞼を開く。
視界に入るのは傷つき果てた愛しい者の涙。
アイシャがフローズン・ドラゴンを見据え吠える。
「ここが貴様の死に場所だ」
と。
シャアリィには、アイシャの言葉は聞こえない。
それでも、二人は勝利を確信した。
もう、何も恐れるものはなく、ただ、悠然と歩み寄る。
対峙する二匹の白き獣。
狂相を浮かべ、その決着をつけるべく睨み合う。
シャアリィが命掛けで削ったフローズン・ドラゴンの傷は浅くはない。
既に動きは鈍く、その巨体を動かす苦痛が見て取れる。
ドラゴンの間合い・・・だが、恐るべき爪も、テイル・スイングも、もう、アイシャには届かない。
抜刀したままの鵺斬を構え、究極の武技、奪命の技の名を告げる。
『迅雷残花』
炎のような禍々しい靄が鵺斬に付与された。
瞬間、アイシャの身体がドラゴンの視界から消える。
刺突、ドラゴンの脇腹に小さな傷をつけ。
袈裟斬り、返しの刃がその傷を開く。
水平斬り、さらに新しい傷が刻まれ。
跳ね上げ、その傷に交差する三つ目の傷。
斬りつける度に膨れ上がる禍々しい靄は、既にアイシャの全身に及び、最後の一撃の凄まじさを予感させる。
大上段から振り下ろされるのは、神速不可避の斬撃。
幼い頃から数千、数万も剣を振り続けた、その軌道。
迅雷残花。
その一撃は、フローズン・ドラゴンの巨木のような胴さえも切断する!
刹那の間に振るわれた超絶の五連撃。
威嚇の咆哮を挙げる暇さえも与えない神技。
しかし、まだドラゴンは絶命していない。
上半身だけになっても、氷結ブレスを撒き散らす。
流れ出た己の青い血を凍らせ、失った下半身を凍らせ・・・だが、アイシャにはそれも届かない。
最後の一撃は、あの『彫像』に与えた介錯の刃と同様。
喉を貫き、首半分を薙ぐ。
力尽きたドラゴンの目から命の光が失せる。
振り向いたアイシャは、シャアリィに歩寄り、戦果を報告する、が。
その言葉が届いていないことに気付く。
「御使いの力をここに集わせ 癒しの奇跡を与え給え」
「対価には祈り 我が鼓動の幾許かを捧げ願う」
「翠と蒼の精霊に奉るは 豊穣だけに非ず」
「ブライト・ヒーリング!」
僅かに残る魔力を注ぎ、シャアリィの傷を癒す。
音を取り戻したシャアリィが、アイシャに抱き着いて、ただ、慟哭する。
その髪を優しく撫で、アイシャもシャアリィを抱き締める。
ずっと、ずっと、ずっと、ずっと・・・心に描いてきた瞬間だ。
何度も酷い目に遭いながら、ただ、このために賭してきた長い長い時間。
それが報われた。
シャアリィは言葉を探し、アイシャはそれを待つ。
少し長い勝利の余韻。
「愛してる」
じわりと広がる幸福感にアイシャの身体と心が震える。
返す言葉は勿論、決まっている。
「私もだよ」
長い抱擁が解かれ、振り返れば氷結龍の骸。
最後の力を振り絞り、アイシャが魔石を抉り出す。
その見事な魔石は、金剛石と見紛う程の純粋な無色透明。
『千本足』の魔石と同等の大きさ。
一体どれ程の長い時を、この竜は生きてきたのだろうか。
それを考えずにはいられない。
アーシアン迷宮踏破、その最大の障壁だった氷結龍は死んだ。
自分よりも遥かに弱い人間二人を見逃したことが、その最大の理由。
皮肉なものだ。
薄暗い玄室の中、シャアリィとアイシャは五体を投げ出し、回復を待つ。
まるで新たな約束をするように互いの小指を絡めて。
その指には、玩具のような小さな指輪。




