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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
378/455

モジュレーション(転調)

先程まで迎撃に徹していたフローズン・ドラゴンが動きだす。

その足取りは、獲物を追い詰める肉食獣に似ている。

ゆっくりと、円を描くようにシャアリィに接近する。

恐らく間合いに入った瞬間、爪の一閃か、それともテイル・スイングか。

それを許せば、シャアリィは呆気なく死ぬ。


正三角だったポジションが、直線へと変わる。


フローズン・ドラゴン、アイシャ、シャアリィの順の直列。

この並びは良くない。

折角の広いスペースが意味を無くし、アイシャは回避よりも防御を強いられる。

そのアイシャも決して防御力は高くないのだ。


シャアリィは意図的に、身体一つ分だけアイシャの背から外れ、それをアイシャに伝える。


「無理して防御しなくてもいいよ」

「間に入ってくれてるだけで、回避時間は稼げる」


背中からのシャアリィの声に、アイシャが答える。


「ああ、避ける場合もあるから、注意は怠らないでくれ」


直後、始まる氷結龍の物理攻撃。

ドラゴンの右の爪の一撃をアイシャが鵺斬で凌ぎ、僅かに開いた空間から見えるドラゴンの腹に、シャアリィのアース・ランスが刺さる。

アイシャの身体によって遮蔽されたドラゴンの視界の奥からの一撃。

この戦闘で初めて入る、まともなダメージ。

ドラゴンは、たまらず少し後ろに退き、自らの傷を見た。


アイシャはその行動に、薄ら寒い感情を持つ。

獣が自らの傷を確認するなどあり得ないからだ。

それは人間に匹敵する知性があるという証拠。

ならば当然、学習能力も高いはず。


それにも関わらず、同じように繰り返される左爪の攻撃。

シャアリィは気付いていないのか、さっきと同じ攻撃を繰り返す。

そして、アース・ランスは又してもドラゴンの腹を抉る。


そして三度・・・


ドラゴンの爪の一撃をアイシャが鵺斬で弾き、開いた隙間からシャアリィのアース・ランス。

だが、三度目はそれだけでは終わらなかった。


『テイル・トルネード』


何時の間にか部屋の隅に位置していたシャアリィを目掛け、水平回転するドラゴンが突っ込んで来る。

このままでは二人とも旋回する尾に弾かれ痛烈なダメージを覚悟しなければならない。

アイシャが咄嗟に取った行動は、ドラゴンに背を向け、シャアリィの手を掴んで思い切り放り投げることだった。

辛くもシャアリィはテイル・トルネードを免れたが、アイシャは背中からまともに喰らう。

ゴキリという太い骨が折れる音、弾かれ宙を舞う身体。

そして、時間が止まったようなシャアリィの視界、冷たい石畳の床にどさりと音を立てて落ちる。


「アイシャ!」


今は無事を確認する暇さえもない。

首だけをこちらに向けるドラゴン目掛けて、シャアリィが走る。

爪の一撃を躱し、滑り込んだその先に、ドラゴンの太い尾が叩きつけられる。

その尾と相殺するように放たれるアース・ランス。


頭上から落とされる踏み付け攻撃を転がって避け、ついに必殺の間合いに辿り着いた。

体当たりするかのようにドラゴンの脚に触れ、コラプションを叩き込む。


・・・


苦悩するかのように天を仰ぎ、ドラゴンは藻掻き苦しみ、喉元を爪で搔き毟る。

しかし・・・その威力は致命には程遠く、内臓の幾つかを破壊するに留まった。

青い血を口から垂れ流しながら、ドラゴンが吠える。


『ドラゴン・ソニック』


その衝撃波で、シャアリィの鼓膜が破れた。

両耳を抑えれば、掌に纏わりつく赤い血潮。

双方、満身創痍になりながらも、その瞳には殺意の光。

意を決したシャアリィが、ただ、まっすぐに螺旋状をドラゴンの胸元に向け、破壊の剣を呼ぶ。


「薙ぎ払えぇえええええ!」


最後の希望の剣、エレメンタル・バーストが、ドラゴンの胸元を抉る!

しかし、無常にも、フローズン・ドラゴンの生命力は、それに耐えきった。

最早、シャアリィに打つ手はない。

だが、諦めないとばかりにヴェンジェンスとカース・サークルを詠唱し、再び、ドラゴンへと突撃した。


そして、二度目のコラプション。

ドラゴンは、ふわりとシャアリィの手が届く場所から、一歩下がり、たった、それだけで致命の腐敗を躱す。


・・・


「アイシャアアアアアアアアアアアア!」

「起きて!助けて!お願い!」


ただ、無慈悲な沈黙が流れ、シャアリィが膝を折る。


「アイシャアアアア!」


床に転がるアイシャの身体を揺すりながら、シャアリィが叫ぶ。


「起きて・・・ねぇ」


ぽつりとアイシャの頬に零れたシャアリィの涙の雫。

アイシャの唇が微かに動き、奇跡の言葉を紡ぐ。


「り、ば、い、ば・・・る」


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