オーバーチュア(序曲)
アイシャは瞬時に地の不利を悟る。
この狭い通路では戦術が限られ、シャアリィの安全が担保出来ない。
「シャアリィ、少し無茶をするよ」
「まずは、最初に見つけた玄室に入って戦場の掃除だ」
「行こう!」
アイシャの手とシャアリィの手が重なり、魔石を放り出したままで手近の玄室の扉をアイシャが蹴破る。
そこにいたのは幽霊の群れ。
あまりに数が多く、掃除している暇はない。
「ここは使えない」
「次だ!」
二つ目の玄室の扉を蹴破る。
中にいたのは、マンティコア!
さすがに瞬殺するには手強すぎる。
「ここもダメか」
「次!」
三つ目にして、やっと引き当てたのは、アラクネ単体。
アイシャが囮になり、シャアリィが背後からカース・シャドウ、そして、コラプションを放てば、それで終わり。
フローズン・ドラゴンを迎え入れるように、アイシャが前衛で待ちながら索敵を開始。
「予定通り、こちらに来てる」
「シャアリィ、十カウントキャノン準備」
「合図でチャージを開始して」
と、言い終わった瞬間に、アイシャから指示が飛ぶ。
「チャージ開始!」
もう、何度繰り返してきたか、返事代わりの魔法風が吹き荒れる。
その風は、今までの十カウントなど忘却の彼方。
吹き荒れる魔法風に混じって、チリチリと硬質な氷結音が大きくなる。
アイシャは、シャアリィの射線から退避し、その氷結音が扉の前に来るのを待ち構える。
「五・・・四・・・三・・・二・・・」
氷結龍の赤い瞳と、シャアリィの金色の瞳、視線が交錯する。
壁面は既に氷結し、アイシャはそれを避けるように少しばかり後退。
「一・・・砲撃!」
シャアリィの放ったフローズン・キャノンと氷結龍のブレスは同時。
玄室の中に荒れ狂う厳冬の嵐と殺戮の氷塊!
それは混じり合うことなく、互いの身体に届く・・・はずだった。
「レジスト!?」
思わずシャアリィの口から零れた苦々しい現象。
予想していたことだが、さすがに目の当たりにすれば血の気が引く。
フローズン・ドラゴンは、キャノンの九割以上を中和した。
勿論、シャアリィとアイシャには、氷結耐性があり、最早ブレスはただの寒風。
その身体が氷結することもない。
シャアリィが不敵に嗤う。
「あはっ、私達はついに対等になったわけだ」
「この日、この時を待ち焦がれていたッ!」
玄室に呼び込んだのは正解だった。
この広い空間ならば、アイシャの機動力はフローズン・ドラゴンにとっても脅威。
正三角形を描くように、玄室の中で対峙する二人と一頭。
次なる攻撃の一手は、ドラゴン次第!
白き魔物の選択は、アイスダガーとアイスランスの乱れ撃ち。
だが、シャアリィのジャミングが、それを捻じ伏せる。
アイシャは鵺斬を手に、フローズン・ドラゴン目掛けて駆け抜ける。
定石通りの脚部破壊を目論んで!
そのアイシャの眼前に振り下ろされる竜鱗の太い尾。
致死のダメージを与えるに十分な威力、迂闊に飛び込めば命運は尽きる。
フローズン・ドラゴンは、近接戦闘にも優れているらしい。
続くシャアリィの一手、絶妙な間隔で放つ、ストーン・バレットのディレイ四連撃。
さすがに土石ならば術式も届く、が、バレットでは、小さなダメージしか入らない。
固い竜鱗は、腹部以外の全てを覆い、その弱点と思われる腹部にダメージを与える術式ならば!
「貫け!」
氷結龍の直下から、強襲する土石の槍。
詠唱陣を理解しているのか、フローズン・ドラゴンが、それを事も無げに躱す。
一進も、一退もない。
互いに決め手どころか、ダメージ・ディールさえままならない持久戦。
だが、シャアリィにはエレメンタル・バーストという切り札があり、アイシャにも迅雷残花という超絶の手札が残されている。
それは鬼札が故、簡単に披露するわけにはいかない。
じりじりと神経を焦がすような戦いの最中だが、二人の顔には凶悪な殺意の表情が張り付き、その形相はまさに修羅。
一瞬の隙を見計らって、シャアリィが魔力回復剤を喉に流し込む。
時が止まったかのように睨みあう間に、キャノンで使った魔力なら回復できると見込んだ。
まだ、氷結龍にも、奇襲の一手があることを、シャアリィとアイシャは知らない。




