アレグロ(快速に)
その迷宮地図は、折り目の所々が破れているものの素晴らしい精度で書かれていた。
沢山つけられた様々な目印。
トラップ、休憩可能場所、要注意玄室、徘徊性の魔物のルート。
それは、
『マッカーシー・パーティのたった一つの遺産』
その価値は、当時ならば金貨百枚にもなるものだ。
残念なことに今のアーシアン迷宮には、それを支払って踏破に挑むパーティが少ない。
だが、その少ないパーティの中にこそ復讐すべき相手がいる。
「これと同じものを持っているパーティが犯人だよ」
「この地図を頼りに進むなら、必ず通る場所は幾つかある」
「それに、もう目星はついているんだ」
あとはそいつらを乗せるだけ。
「もう、伝えておこう」
「敵の名前は、マルシェ・イングリット」
「あのイザベラよりもさらに珍しい、ハーフエルフだよ」
「グレイの瞳と髪、変わっていなければボブヘアー」
「男好きのするカラダの双剣使い」
アイシャは、敵の素性をシャアリィに告げ、妖しく笑う。
「厄介なのはサイレント・ムーブ」
「パーティメンバー全員が隠れ蓑を纏う、隠密スキル」
「マルシェのスキル範囲は、それ程広くない」
「いくら隠密スキルとは言え、誰かがドジを踏めば解除される」
「例えば、転倒とか、或いは攻撃態勢に入るとか」
「シャアリィが気まぐれに後ろに向けて、アイス・ブラストを撃てば一巻の終わり」
「まぁ、そうなれば生き残りは難癖付けてくるだろうがね」
アイシャがそこまで考えているならば、既にイングリット・パーティの命運は尽きている。
・・・
「さあ・・・」
「私達の旅の集大成を見せる時だ」
シャアリィとアイシャは手を取って、アーシアンの迷宮に一歩踏み出す。
懐かしくも、まだ、愚かで弱かった最初の冒険の記憶。
小石に躓き、自分の立てた音に寒気を感じ、石畳の冷たさに恐怖した。
まるで二人を出迎えるような、最初の会敵の相手は、
「犬人」
その群れをアイシャが彗星棍でひと薙ぎにする。
どうやら、ヒトの往来も少なくなり、迷宮は飢えているようだ。
一層目から手荒く、魔物の群れが押し寄せる。
まだまだシャアリィの出番はない。
雑魚の魔石など価値もないと、転がした骸をそのままに、二人の進軍は止まらない。
二層、三層と、進めば、リザードマン、ジャイアント・ビートル、シャドウ・ゴースト、見慣れた連中が勢揃いだ。
四層に入って、やっと敵らしい敵に出会う。
『ファイヤー・ジャイアント』
ジャイアントと言うものの、人間より少し大きい程度。
今度はシャアリィのアイス・ブラストで一撃死。
ツリーマン、ポイズン・フロッグ、クロコダイル、マミー。
中層域とは言うものの、二人にとって脅威ではない。
「シャアリィ、止まって」
五層に下る階段の一つ。
シャアリィには初めてのルートで、アイシャが制止を促した。
アイシャが三節棍で宙を薙ぐと、小さな壁の裂け目から飛び出してくる弩弓の矢。
その位置を把握してから、アイシャはもう一度三節棍で薙ぐ。
「今だ、走れ」
矢が再装填されるまでの僅かな時間、トラップを駆け抜ける。
出来る限り罠を避けるルートを選んでいるが、それでも、一つ、二つは外せない。
否、外すならば、相当の遠回りか、玄室二つを通過することになる。
少しの面倒で事足りるならば、最短距離。
さすがは元マッカーシー・パーティの斥候アイシャ。
六階層までならば、隅々まで知り尽くしている。
このルートを通るのには、もう一つの理由がある。
それはシャアリィが殺された通路の回避。
何とも思っていないかも知れないが、心に刻まれたトラウマは侮れない。
六階層に降りる階段で、アイシャが告げる。
「ここまでとここからは、まるで違う」
「覚悟はいいかな?」
シャアリィはただ、アイシャを信じ、笑顔で頷いた。




