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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
374/396

気前の良い花と酒

既視感を覚える大聖堂の鐘の音。

ジルノワールの中継点では宿探しに失敗し、キャラバンの客車で眠る羽目になったが、それ以外には大きな問題もない。

最初に向かうのは、やはり花屋。

ちょうど通り道に酒屋もあるのだから好都合。

今回は意を決して、アイシャが花束を用意する。


「大きな花束を五つ、真ん中は白い大輪の薔薇で」


口に出してみれば、心の靄が晴れたような気がした。

復讐の暁などを待たずとも、シャアリィのように今、出来ることをすれば良いのだと。


「おや、随分久しぶりだね?」

「また手向け花かい?」

「こんな気前の良い花束は滅多にないから覚えていたのさ」

「でもね、ずっと、こんな花束を贈る必要はないんだよ?」

「いずれ痛みが癒えて、忘れることこそが死者の願い」

「私は、長いこと花屋をしてるけれど、そう思うんだ」


花屋らしからぬ老婆の物言いに、シャアリィが笑う。


「お婆さん、商売なんだから!」

「でっかい花束買わせておけばいいのよ?」


花屋の老婆もくすくすと笑って、


「私も、お墓も、生きているひとのためにあるんだもの」

「やっぱり邪魔になりたくはないわ」


と、少し寂しそうに笑った。


・・・


昼下がりの墓地は、強い日差しのコントラスト。

その片隅にある五つの墓標。

なんのかんの言っても、ここに花を供えるのは、シャアリィとアイシャしかいない。

嵐の夜に命を繋いだ度数の高いジン。

贅沢過ぎるような大きな花束。


「たまにしか来ないんだから、これくらいさせてくれ」

「皆、ずっと待たせてしまったが、いよいよ、宿敵を倒す時が来た」

「あとは私が土壇場でコケないように見守っていてくれ」

「パーティメンバー勢揃いは、もう少し先の話になるよ」


アイシャは笑顔でマッカーシー・パーティの墓標と語らう。


「討伐に成功したならば、私から赤い薔薇をプレゼントするよ」

「そろそろ常世の人生にも彩が必要でしょ?」

「ちょっと場違いかも知れないけれどね」


シャアリィは死者と約束を交わす。

墓地に背を向け行く先は、アーシアン冒険者ギルド。


凱旋の時だ。

もう、小娘と笑わせはしない、逃亡者と蔑ませはしない。

それだけのものも積み上げた。


「お久しぶりです」


と、アイシャが受付嬢に声を掛けると、生唾を飲み込む音が聞こえた。


「アイシャさん、シャアリィさん」

「迷宮踏破、と、ネームド討伐、アーシアンにも届いていますよ」

「本当に強くなられたんですね」


素っ気なく返事をするアイシャは、既に周囲を観察中だ。


「ああ、難儀だったが、今日まで生き残ってる」

「告知伝票を貰ってもいいかな?」


その貫禄に圧されるように、受付嬢が伝票を手渡す。


「私達は、明日よりアーシアン迷宮の探索に戻る」

「目標は勿論、迷宮踏破」

「その過程の中には氷結龍殺しも含まれている」

「誰かがうっかり紛れ込んで犠牲にならないとも限らないから、前以て告知しようかな、と」


受付嬢はやたらとアイシャの後ろを気にしている。


「他のパーティ・メンバーの方は?」


シャアリィがへらっと笑って、


「いると思う?」


と、常識と非常識の入り混じる問い返し。

受付嬢は理解したらしく、


「お二人ともお気をつけて」

「アーシアンの迷宮探索は、殆ど進んでいません」

「長い期間、中層域より下層は封鎖されておりましたので」


二人はにやりと口角を吊り上げ、


「それは結構」


と、嗤った。


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