凱旋の始まり
まるで隣街に少しばかり遊びに行ってくるという雰囲気。
だが、それこそがシャアリィとアイシャにとって心地の良い別れ。
死ぬつもりは毛頭ない。
そのために半年以上の歳月を掛けて大周回の旅をしたのだ。
「エドワード、これは置き土産だよ」
アイシャがトルネード・ハウンドの魔石を手渡す。
「売れば多少の金になる術式が入っている魔石」
「治癒院の経営で領主やギルドに借りを作りたくない時に使うといい」
「その必要がないなら、いずれ生まれる子供への贈り物だ」
エドワードは、
「気が早すぎるぜ」
「まぁ、またそのうち帰ってくるんだろ?」
「なるべく使わないように取って置くよ」
と、目に涙を溜めて言う。
シャアリィは、それを眺めながら思う。
必ず帰って来るよ、と。
でも、それは言葉にはしない。
ザックパーティ一味と黒猫姉妹が並んで手を振れば、シャアリィとアイシャは少しばかり恰好を付けて、背を向けたまま、ひらひらと掌だけで返す。
振り向けば、後ろ髪を引かれてしまうから。
午後便のキャラバンの準備がそろそろ終わる頃だ。
『黒猫のテラス』を横目に、衛兵達に愛想を振り撒いて、キャラバンの停車場に着く。
「アーシアンまで二人」
と、旅券を買い求め、それをポケットに捻じ込む。
「さて、最後の戦いだ」
「今はそれだけ」
アイシャがシャアリィの手を握り、キャラバンの客車に乗り込む。
・・・
「シャアリィ、アーシアンでの活動のことなんだけど」
「行動予定や戦術は、私に任せてもらえないかな?」
「私達には魔物以外にも報復する相手がいる」
「それを追い詰める罠を張りたいんだ」
アイシャに言われた事はシャアリィにも理解出来る。
「勿論、そういうことはアイシャに頼るしかない」
「失敗したって構わない」
「アイシャの好きにするといいよ?」
清々しい程の信頼に、アイシャが頷く。
「そう言って貰えると助かるよ」
「もう、前回のような疑心暗鬼にさせたりしない」
「私を信じてくれてありがとう」
シャアリィは膝を二回軽く叩き、しっぽを乗せろと催促する。
アイシャは素直に応じる。
「うん、ちゃんと心穏やかだね」
「アイシャのしっぽは嘘をつかない」
「私にはちゃんとわかるよ?」
そういうことか、と、アイシャは腑に落ちる。
「まさか、そういう絡繰りだったとは思わなかった」
「確かに気をつけて出来ることじゃないね」
「今更だけど、前は不安にさせてごめん」
シャアリィは目を閉じたままで答える。
「もう、過ぎたことだよ」
「私もヒステリックになり過ぎてたし」
「たまたまギクシャクしてしまっただけ」
目的地まで、あと五日。
この長かった旅を思えば、もう、秒読みのようなものだ。




