旅立ちの前に
シャアリィとアイシャにとって冒険者ギルドは素通り出来ない。
今回は、魔石鑑定という依頼もある。
「トルネード・ハウンド」
「サイレント・ジャガー」
聞いただけで身震いするような魔物の名前を口して、魔石を預ける。
鑑定料は一つにつき金貨二枚。
術式が入っていても、入っていなくても。
その額は、魔石の売却価格と同じ。
術式が封印されていなくとも自腹を切るようなことにはならない。
「二人共、少し奥で話さないかね?」
と、ギルド・マスター、ロートシルトに誘われれば、断る理由もない。
「また二つ、名有りを倒したそうじゃないか」
「まだまだ強さを求める旅を続けるのか?」
「私も今年限りで引退」
「ようやく解放される・・・この街でゆっくりするというのはどうだ?」
「もう、私も長くはない」
「茶飲み友達がいれば、余生も少しは楽しめるのだがね」
アイシャがにこやかに応じる。
「ギルマス、申し訳ないが遠慮するよ」
「旅は間もなく終わるけれど、まだ決まったわけじゃない」
「ここに来たならば、こうして楽しい話をするのは吝かじゃない」
シャアリィも同様に、
「旅を止めるのは何時でも出来る」
「でも、私達はそれを選ばなかったんだよ」
「私達だって、この街が大好きだし、余生を過ごすならここがいい」
「でも、まだ早すぎるね」
ロートシルトが窓の外を見て呟く。
「あのミヤマも往ったそうだね」
「私は死ぬのが怖いんだ」
「曾孫までいるというのに情けない話だ」
「ここで何人もの冒険者を見送った・・・皆、前途ある若者だった」
「私は運よく生き延びてしまった」
「年を取るというのは惨めなものだね」
「感覚は鈍り、世界が色褪せてゆく」
「それは誰にも止められない」
ランドウ・ミヤマは、こうではなかった。
と、アイシャは言葉を飲み込んだ。
「私達も年を取ったなら、ギルマスの気持ちがわかるかも知れない」
「でも、今の私達には『生き残る』ことこそが大切」
「だから、同意は出来ないし、旅も終わらない」
「私達に構って欲しいならば、色褪せた世界で長生きしてくれ」
痛烈な皮肉を交えた言葉は、あと少しだけ生きて欲しかったランドウへの思い。
アイシャはそれでも、言葉を選んだのだ。
「鑑定が終わりました」
その言葉で、ロートシルトとの邂逅は終わり。
シャアリィがそれを優しく告げる。
「もし、人生に後悔なさっていても受け入れるしかない」
「そうしなければ何も楽しめないでしょ?」
「ギルド・マスター、私はあなたの人生も尊重します」
「だから、惨めだなんて思わないで下さいね?」
「今までありがとうございました」
・・・
結局、サイレント・ジャガーの魔石には術式は入っていなかった。
トルネード・ハウンドの魔石には、ハリケーンの術式。
中級の範囲攻撃術式の魔石はかなりの価値がある。
しかし、それはもう、シャアリィやアイシャには不要とも思えた。
手数は十分にあり、選択肢に加えるには物足りない。
一つはアイシャが使用し、一つはエドワードへの置き土産。
オークションに出せば金貨千五百くらいにはなるだろうが、どうせ落札するのが、北のベネディクトなら西方の人間としては、出品したくはない。
後味の悪い訪問になってしまったが、これも仕方のないこと。
シャアリィとアイシャは、冒険者ギルドを出て、ファイヤー亭へ。
この街を出る別れの挨拶を交わしに。




