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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
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本日は貸し切り

アンナの工房は街の外れにあったので、気にすることもなかったが。

その匂いは罪作りにも周囲の人間の食欲まで刺激した。

最初に気付いたのは、勿論、アレックス。


「なんだなんだなんだなんだ?」

「一体、何をどうすれば、こんな匂いが出るんだよ?」


シャアリィはお構いなしに、キッチンの換気窓から芳香混じりの煙を垂れ流す。

閉店しているはずのファイヤー亭から、香ばしい香りが漂ってくる。

扉を叩く音が鳴る。

アイシャが本日は営業していないと伝えるが、何度も、何度も、客が来る。

扉に一つの張り紙がされた。


「本日は、貸し切りのため、一般のお客様はご遠慮願います」


最早、営業していないというよりも、貸し切りのほうが言い訳として成立すると、判断したのだ。

シャアリィの隣で他の料理を作る黒猫たちも、お腹の虫を鳴らせっ放しだ。

アイシャは、ライスを洗って炊いたり、刺身を切って盛り付けたり。


黒猫たちは上手に野菜を刻んで刺身の添え物を作る。

それが終わるとソーセージ入りのポトフをぐつぐつと煮始める。

これはもう、香りの暴力だ。


オルチェは、階段の下で腹痛のように腹を抱えて、


「何でもいい、少しだけ味見させておくれ」


と、呻く。

そこに現れたのがエドワード。


「おい、オルチェ、大丈夫か?」

「腹か?痛むのか?すぐに治癒術を・・・」


エドワードの腕を掴んで身体を起こしたオルチェが、全部、こいつらのせいだ。

と、シャアリィ達を指差す。


「お前ら何かしたのか?」

「・・・ん?」

「なんだ、この腹の減る匂い・・・そういうことか」


事を理解した、エドワードにシャアリィが大声で、


「大変だ、エドワード、忘れ物をした」

「ケーキを買ってない!すぐに『黒猫のテラス』に走って!」

「夏だから、まだ空いてるはず」


反射でエドワードが百メートル程先のカフェテラスのケーキを総ざらいするように買ってきた。

その頃には、うなぎを炙り終えたシャアリィが汗を拭い、皿に盛りつけている最中。

テーブルに並ぶ料理を見て、アレックス夫妻も、黒猫姉妹も、エドワードも絶句する。


「これがエンダーベルト仕込みの料理です」

「うなぎと、お刺身のマヨ山葵、口直しに大根と人参の添え物」

「黒猫ちゃんたちが作ったポトフも美味しそうだね」


テーブルにひしめく料理の隣にライスの鍋が運ばれてきた。

深皿にライスを盛り付け、うなぎを乗せ、そしてタレをじゅわっと上から掛ける。

空腹に苛まれていたオルチェが、


「もう我慢できない、食べるよ!」


と、宴会の火蓋を切って落とす。

香ばしく焼きあがったうなぎの上品な脂とタレの至福の味わい。

皆が天を仰ぎ、


「うまぁい」


と、声にする。

そこに登場するのが、ライスワイン。


「ナッチェも少しだけね?」

「あと一年の辛抱だからね?」


と、今日だけは特別に一口だけシャアリィのグラスから啜る。


「んっぴゃあ、お口のなかがほかほかふわふわ」

「冷たいワインなのに、不思議だね」


と、可愛らしい感想を漏らし、アレックスがくいっと、一息に飲み干す。


「ぷっはあああ、負けた、降参だ、酒も料理も、こいつぁ参った!」


その横でオルチェは無言でひたすらにうなぎを食べ続け、それを見ていたアイシャに刺身を勧められる。

生魚に慣れていないオルチェは恐々とフォークを突き刺し、大豆ソースと山葵、マヨネーズを付けて口に放る。


「これが生の魚・・・やばい、アタシの中で革命が起きてる!」


最早テーブルは戦場だ。

満たされたはずの腹が、黒猫姉妹の作ったポトフで無慈悲にも回復する!


「ポトフがこんなにも滋養に満ちたものだとは・・・」


エドワードが感嘆しながら、エレナとナッチェの頭を撫でる。

うなぎを頬張りながら、アレックスが何か閃いたようだ。


「このタレ、これで鶏を焼いたら、多分、すっげえ美味いだろ?」

「えっと、大豆ソースに生姜が少し、後は砂糖か、ん-、何か足りない気がするが、まぁ、最初はそれでやってみるか」


シャアリィが、


「それね、旧世界の料理レシピで、焼き鳥っていうらしいよ」

「塩胡椒だけで焼いても美味しいんだけど、コツはこの火鉢なんだって」

「炭で炙るから香ばしくなるらしい」

「本持ってるから、後で見せてあげるよ?」


アレックスがそれに飛びつく。


「まじか!」


まだまだ、宴は始まったばかり。


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