ひとはひと
「さて、お買い物ツアーなんだけど」
「エレナやナッチェは何か欲しいものある?」
「夏用のドレスに合わせた靴とか、どう?」
シャアリィが、黒猫たちに聞いてみると、黒猫たちは首を振る。
「お給料も貰ってますし、身の回りの品は大丈夫です」
「逆にお金を何に使っていいかわからなくて」
「貯まる一方なんですよ」
予想はしていたが、エレナもナッチェも無駄遣いするタイプではない。
そこでアイシャが提案する。
「じゃあさ、サプライズしない?」
「アレックスとオルチェに恩返しサプライズ!」
黒猫たちは、アイシャの提案に目を輝かせて同意する。
「プレゼントと、食材を用意するんだよ」
「で、安息日にキッチンを借りて作る」
「メインの料理は任せて!」
「旅先で覚えたすっごいの作るから」
じゃあ、と、ナッチェが手を挙げて、
「ご夫妻へのプレゼントを選びに行きましょう」
こうして始まったサプライズ計画。
・・・
アレックスへのプレゼントは、
エレナからは高級酒、ナッチェからは綺麗な細工のグラス。
シャアリィとアイシャは、包丁セットを選んだ。
オルチェへのプレゼントは、
エレナが化粧品、ナッチェはそれを仕舞う収納箱。
シャアリィとアイシャは、随分と迷いながら宝石入りのネックレス。
アレックス夫妻に見つからないように姉妹の寝室にそれを運ぶのが、なかなかに難しいミッションだったが、なんとか上手くいった。
安息日まであと二日。
流石にスパイスを揃える時間はなく、トロも見つからない。
だが、うなぎは見つけた。
河口でなくともうなぎは随分と遡上してくる魚らしい。
エンダーベルトで手に入るような太いものはなかったが、そこは数で埋め合わせ。
領主府の傍で割烹料理店も見つけたので、当日午後に捌いてもらう約束を取り付けた。
当然、氷も、串も、タレも融通してもらった。
あとは、ライスと薬味、そして炙るための道具。
アレックスの所にある火鉢は随分と大きい暖房用。
ライスは、気にいったら結構食べるものなので、大きな袋を一つ。
薬味には山葵と瓶入りの山椒の粉。
職人ギルドに足を運んで、手頃なサイズの火鉢と上等な炭を仕入れた。
これで準備は整った。
しかし、一品では少しばかり寂しいので、追加の料理も考える。
トロは手に入らないけれど、普通のマグロはあったので、大豆ソースとマヨネーズ。
付け合わせには刻み大根、刻み人参。
火鉢はさすがに隠しておけないので、シャアリィが炙りチーズを作るために買ってきたと誤魔化した。
当日が待ち遠しく、鼻歌が出てしまうシャアリィ。
明日は、エドワードの治癒院に顔を出して、それからザックの墓参り。
毎回やることはあまり変わらないけれど、それでもやっぱりこの街が好きだ。
アイシャは、シャアリィの頭を撫でながら、
「私達も料理店でも開くか?」
「割烹で修行というのも楽しそうだ」
「それともミヤマで修行して、この街で鍛冶屋でもするかな」
「まぁ、私達なら何でも出来る」
と、言うと、シャアリィは、
「何処まで強くなったとて、ひとはひと」
と、クサカベの言葉を呟いた。
そこにはもう、戦いの中でしか生きられないという悲哀はない。
いずれ迎える結末がどうであれ、生き残ったのならば、まだまだ人生は長い。
初めて戦い以外の生き方を考えた二人だった。




