嵐は去る
翌日、午前十時、冒険者ギルド。
用意されていた金貨と魔石の預かり証を交換。
手にした金貨は六十枚、端数の銀貨は教会への寄付箱に投入。
偽善は、ひとの心に余裕を持たせてくれる。
その偽善で誰かが救われたならば、尚、良い。
イルオールドの冒険者ギルドから、シャアリィとアイシャという嵐が去り、受付嬢も他の冒険者達も安堵の溜息を吐く。
二人は、そのまま『黒猫のテラス』に立ち寄って、旅の間に消費するチョコレートとキャラメルの補充。
午後便のキャラバンの出発までは少々時間があるものの、ドタバタするのはやめようとお茶をする時間は省かれた。
そのまま西門の衛兵と少しばかり立ち話。
「その剣、恰好いいな」
「高かったろう?」
という年配の衛兵に、アイシャが澄ました顔で、
「ええ、でも、これ実質貰い物みたいなもんですからね」
「少しばかりミヤマさんと縁がありまして」
衛兵は目を細め、
「ああ、先日、あそこの先代が亡くなられたんだっけね」
「名匠ミヤマ、この街の自慢のひとつにも新しい時代か」
「お嬢さん達のような若い冒険者は、まず、命を大切にな」
と、優しい言葉を二人に掛ける。
シャアリィは元気な笑顔で、
「命を大切に」
「何度聞いても、胸に沁みる言葉ですね」
「おじさんも元気で!」
こうやって手を振り合って人と別れるのは何度目だろうか。
空は曇天、この季節はどうにも雨が多い。
雨が降り出す前にキャラバンの準備が整ったのは幸運。
西門から北の方角を見れば、アーシアン正規軍の駐屯地がある。
この泰平の世も砂上の楼閣。
戦は何時起きるかわからない、と、教えるかのように。
闘技場、神殿、初心者殺しの三色迷宮、刀剣の一族、高層建築物、大噴水。
アーシアン連合国文化都市イルオールドを離れ、次の目的地はホーム。
そこに着くのは薫風が南風に変わる頃。
――― キャラバンは進む。
長い修行の旅は終わった。
様々な因果の清算も。
失意の冬から三度目の夏。
まだ燃え続ける復讐の炎。
それは己の身を焼く地獄の業火か、宿敵を滅する浄化の灯か。
たった一つの目的を果たすために交わされた約束は揺るぎない愛に。
絡めた指には小さなリング。
今はまだそれが精一杯だとしても、シャアリィとアイシャは満足だ。
だから、せめてキャラバンに揺られている間だけは。
この身を寄せ合う時間だけは。
誰にも邪魔されたくないと、そう願った。




