誓います
その後は、大きなトラブルもなく、五千個の魔石を積み上げることに成功した二人は、アイシャの術式獲得のために冒険者ギルドの倉庫に向かう。
必要な魔石の数は予想通りの千九百二十二個、二回目には二千五百三十五個。
合計四千四百五十七個を消費した。
獲得した術式は、
『迅雷残花』と『起死回生』
迅雷残花は、五連撃の刀剣スキル。
初撃を八十とし、二撃目は百六十、三撃目は三百二十、四撃目は六百四十、最後の一撃には千二百八十。
攻撃が当たる程に威力を増す。
全弾命中ならば、その威力は通常の斬撃の約二十五倍にも至る爆発的な破壊力。
但し、消費魔力も桁外れ。
再使用時間こそ短いものの、魔力が足りなければ体力を浸食する。
起死回生は、残りの体力が少しでもあれば、瞬間全回復というイカサマ染みた超回復スキル。
魔力さえ必要ないが、さすがに連続使用は出来ない。
再使用に必要な時間は十二時間。
アイシャ自身、信じられない程の超絶術式。
最早、フローズン・ドラゴン戦に憂いなどない。
「私のコラプションもイカサマスキルだけど、アイシャの起死回生も同類だね」
「すべての準備は完了した」
「レリットランスに一度帰ろう」
余った風雷魔石をギルド・カウンターで精算する。
「・・・全部精算ですか?」
あれ程、買い取りを希望していた受付嬢も、五百もの魔石を前にすれば嫌な顔。
「ただいま業務が詰まっております」
「預かり証書を発行しますので、精算は明日で」
と、検品を先送りにし、溜息をついた。
・・・
連日のように通った『黒猫のテラス』の姉妹店とも、明日でお別れ。
せっかく顔馴染みになったのに、寂しい限り。
「今日は、パフェ食べちゃうぞ!」
と、シャアリィがオーダーを決めると、アイシャはお嬢様っぽく、
「私は、普通の紅茶でいい」
「それとフォンダン・ショコラを」
ちょっと澄ましてオーダーを終える。
シャアリィの前に運ばれてきたパフェは、夏の果実がてんこ盛り。
大正義、生クリームにカスタードクリーム、チョコレートソースにミントの葉。
思わずアイシャも見入ってしまう。
「ふふっ、しっぽがそわそわしてるよ?」
「スプーン、もう一つもらおうね」
そう言ってテーブルの真ん中にシャアリィがパフェを置くと、アイシャも運ばれてきたフォンダン・ショコラを並べる。
「結局、こうなるのか」
「勿論、こうなるんだよ」
と、何時ものように仲良くシェア。
今日まで何度も何度も繰り返した途方もなく長いルーティンワークの数々。
それも、この甘味があれば報われる。
南部大周回の旅で得たものは、沢山の経験と沢山の思い出。
そして、もう、迂回するまでもないという自信。
『全部終わったら』
と、いう言葉だけは、互いに言わないようにこれからのことを語り合う。
エドワードとエレナの結婚式、ナッチェの初恋、ファイヤー亭二号店。
いろいろな妄想を膨らませる。
お茶がアルコールになって、甘味の全てがテーブルから消える。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、初夏の夕暮れはまだ涼しい。
シャアリィが露店の宝石店で、小指用の指輪を見つけた。
それはまるで玩具のように小さな、既製品。
それでも記念にと、お揃いのものを買って、互いに交換して指に嵌める。
「汝、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も」
「生涯、愛し、敬い・・・なんだっけ?」
と、シャアリィが少し巫山戯ながら口にすれば、アイシャは、
「誓います」
と、呟く。
シャアリィは満面の笑顔で、
「やったぁ!」
と、はしゃいでアイシャの髪を撫でた。




