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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
361/395

獣化と夏の雲

二度目の迷宮四層。

さすがに一層とは比較にならない程に魔物は手強い。


三つ目の玄室に現れたのはサイレント・ジャガー。

シャアリィのジャミングよりも早く届いた、サイレンスの術式。

玄室内が一瞬にして無音の空間になる。


直後、視界から消えるように真横に跳ねたジャガーの狙いは明らかにシャアリィだ。

その恐るべき俊敏な獣は、壁はおろか天井さえも利用する立体機動の魔物。

術式を封殺されたシャアリィには攻撃手段は皆無。

絶対絶命のピンチを打破するには、迷ってはいられない。

アイシャは、瞬時にベルトホルスターを外し、禁断の一言を口にする。


「獣化!」


盛り上がる筋肉、逆立つ髪。

一瞬のうちに現れたのは、白毛獅子そのもの。

サイレント・ジャガーを上回る機動、そして、圧倒的な顎の筋力。


アイシャは、ジャガーの後ろ脚に鋭い牙を突き立てると、そのまま宙に持ち上げ、さらに床にその身体を叩きつける。

そして横倒しになったジャガーの腹部を鋭い前足の爪が引き裂く。

ぶち撒けられた内臓を足蹴に、さらに頭部への一撃。

引き裂かれたジャガーの顔面から、見えてはいけないものが零れ落ちる。

一瞬のうちの破壊。

完全な無音の空間は破られ、風の唸りが壁の向こうから聞こえた。


血溜まりの上で勝利の咆哮を上げると、するすると身体が縮み、元のアイシャの姿に戻る。

両肩でぜぇぜぇと荒い息をしているアイシャの心音は、傍にいるシャアリィにも伝わる程に早い。

床に力なく膝を落とし息を整えるアイシャの髪をシャアリィが優しく撫でる。


「無茶しちゃって・・・もう」


くしゃくしゃと髪を撫でられるアイシャの呼吸がゆっくりとしたテンポに変わる。


「だって、こうでもしなきゃ、危なかったんだから」

「ああ、これ、ほんと嫌なんだよ・・・だって」


言わんとすることは、理解出来る。

今のアイシャは身に纏っているものが何もないのだから。

シャアリィは自分のローブを脱いで、アイシャの肩に羽織らせる。


「スカートは嫌だけど、パンツなら貸してあげるよ?」


と、少し意地悪くアイシャの耳元で囁くと、アイシャは、


「どうせ誰もこないから、これだけでいい」


と、頬を膨らませた。

さすがにこのままでは狩りを続けられない。

皮の当て具の類も、ブーツすらも弾けてしまったのだから、もう素足しかない。

シャアリィはサイレント・ジャガーの魔石を胸から抉り取ると、


「帰ろうか」


と、アイシャに優しく告げた。

アイシャは、ただ、小さく頷くしかない。

ローブがフード付きだったことだけが、たった一つの僥倖。


幸い迷宮からの帰路から大噴水までは誰とも擦れ違わなかった。

そこから見える最初の服店に駆け込み、すぐに衣類を買い揃える。

シャアリィがブーツを脱いで、アイシャの足と大きさを比べる。


「私より、二つサイズ大きめって感じね」

「アイシャは、ここで待ってて」

「私、ブーツ買ってくるから!」

「その後、革細工職人さんの所に行こう!」


服の会計を済ませれば、服屋の店員も快く待機を了承し、椅子を用意してくれた。

新品の服に身を包み、ただ、ぼうっとするしかないアイシャ。

こういう時は、何故か時間の経過が遅く感じるものだ。


「でも、シャアリィを守れて良かった」


呟いた独り言に満足し、椅子に座ったままで両足を前後に振れば、幼い頃、服を汚してしまった時のことを思い出した。

帰れば叱られるし、帰らなければ探されて尚叱られる。

そんな嫌な思い出を、何故、今、思い出したのだろうか。


店の奥から眺めた空には夏の雲。

少し涼し気な真新しい服。

そして、もうすぐ恋人が靴を買ってきてくれる。


少しだけ少女らしく顔を赤らめ、アイシャは俯いてシャアリィを待った。


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