魔石を積み上げろ
迷宮の回復を待つこと二日。
完全回復していないというのが半分、或いは過剰回復しているというのがもう半分。
それは潜ってみなければわからない。
踏破済みの迷宮にしてみれば、現在の時間は、余生のようなものであり、意地でも最深部を守る必要性はないのだから、魔力を温存するのが普通だろう。
勿論、意志があるのかどうかはわからない。
一度フロア全体を探索してしまった迷宮は、少しばかり味気ない。
しかし、メリットもある。
残りの玄室の数、想定される魔物、それがわかっていれば、過剰な魔力の節約をせずに済む。
「はい、どーん!」
と、勢いよくシャアリィが玄室の扉を蹴り開けると、群がって来るバンシィ達。
そこに一発試し撃ち。
「薙ぎ払え!」
と、エレメンタル・バースト。
袈裟に振られた杖の先端から伸びる光の剣が、バンシィ達をまさに『薙ぎ払う』。
その軌道上にいたバンシィが悉く消滅し、床に魔石がからんからんと音を立てて転がる。
四属性混合の光の剣の長さは十メートルにも及ぶ。
しかし、その持続時間は一秒にも満たない。
まさに刀の一振りだ。
アイシャがこれを使うには、十五節もの長い詠唱が必要であり、アイシャの力量ならば、その間に同じ数だけの敵を葬るだろう。
それにランス数発分の魔力を一度に消費する燃費の悪さ。
絶大な魔力を持つシャアリィだからこそ、気軽に使えるのだ。
前衛のアイシャがブライト・ヒーリングを獲得した理由は言うまでもなく、シャアリィの肉体の脆弱性にある。
同じ被弾をしても、シャアリィは内臓破裂、アイシャならば打撲程度。
受けた部位の違いはあれど、目に見えてわかる差があるならば、アイシャが取得したほうが理に適っている。
さくさくと狩りは進み、数時間で一階層全ての玄室から通路に至るまで駆逐し尽くしてしまった。
結局、迷宮は過剰再生もしていなければ、完全回復していないわけでもなく。
初日に狩った分より、通路で駆逐したものを上乗せした風雷魔石を手にいれた。
・・・
現状、積み増した魔石の数は二千五百を超え、この迷宮での目的の折り返し地点。
「これ売ってもらえませんかね?」
という涙目の受付嬢にシャアリィが笑顔で答える。
「ごめんね?」
「これあげるよ」
と、キャラメルの包みを手渡して、アイシャも済まなさそうな顔で、
「まぁ、あと二、三回狩るだけだからさ」
「笑って見逃してくれると助かる」
本来ならば、他の冒険者とトラブルになるようなことはしない二人だが、今回ばかりは少々、無茶をしても仕方ない。
明日の四層で、また、グリフォンに出会えたならば最高だが、そうは上手く行かないだろう。
グリフォンでなくとも、多少、骨のある魔物ならば、また、術式獲得の期待も高まる。
まだ陽も高い時間、シャアリィとアイシャは冒険者ギルドを出て、黒猫のテラスに向かう。
「狩りにいくとお腹が減るね」
と、シャアリィが言えば、アイシャも笑いながら、
「ほんと、そうだね」
「夕食を遅めにして、ケーキ食べちゃおうか?」
と、魅力的な提案をする。
シャアリィはぶんぶんと頷いて、
「もう暑くなり始めたから、レアチーズなんてどうかな?」
と、同意を求める以上、一切れで済ますつもりはないらしい。
アイシャは、
「ホールはだめ」
「同じ味ばっかりで飽きちゃうじゃない」
と、釘を刺した。




