表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
359/395

閑話:東方の鍛冶職人の流儀

今更街に戻った所で、空いている宿は売れ残りの部屋。

ミヤマの屋敷の客間に通され、少し遅い夕餉まで頂くこととなった二人。


『頂きます』と、食事を前にして、掌を合わせて必ず言う言葉は、『生命を頂く』という意味らしく、この屋敷の誰もが必ず唱える。

掌を合わせるという行為は、東方の島国では神聖な仕草である。


「みそ?しる?」


大豆を発酵させた調味料のひとつで、ミヤマの屋敷ではポピュラーな食材。

アイシャは慣れたものだが、シャアリィは初めて味わう味覚。


「かつおだし?」


どういうことかわからないが、恐ろしく食欲を唆る魚のエキス。


「焼き魚」


文字通り塩をまぶし焼いただけの川魚だが、その香りの香ばしさと魚自体の旨味に絶句する。


「つけもの?」


野菜を塩漬けにして発酵させたもの、酢漬けのピクルスよりもあっさりしていて食べやすい。


これがミヤマの屋敷の普段の食事。

棟梁から丁稚に至るまで、皆が同じものを食べる。

厳しい上下関係の職人の一族だが、それが仕来(しきた)りというものらしい。

皆、ライス一粒残すことなく、一人分として出された食事を平らげる。

好き嫌いは許されない。

食が細い者は前以て伝え、食事を残さぬように気を付ける。

腹八分という習慣から、満腹になるまで食べるような者はいない。

それでも出てしまう廃棄物は、畑に還元されて肥料となる。

東の島国は、実に効率的な配慮に満ちている。


(はし)


一対の棒状の食器で、これひとつであらゆる食事をするが、フォークのように突き刺して使うことは禁忌である。

この食器だけは上級の職人、棟梁には個人専用のものがある。

その理由は極めて単純、趣味を許される身分かどうかということだけ。


客人以外は皆、同じ風呂に入る。

時には温泉のように多人数で入ることもある。

そうすれば、手間が減り、資源の無駄使いも無くせる。

衣服にしても、『おさがり』という習慣があり、年長の者から幼い者に衣服が譲り渡され、手直しを加えて着回し、最後には端切れとなり掃除等で使う布になる。

とことん物を大切にし、自然を愛する一族の生き方を垣間見て脱帽するシャアリィだった。


・・・


翌朝、早朝。

中庭で、若い職人たちが武芸の稽古をしている。

全ての者が達人というわけではないが、皆、それぞれ真剣に取り組んでいる。

自分の腕で武具を扱い、使い手の気持ちを知るのが目的なのだろう。

木剣を振る音が勇ましい。


ひと汗かいた後、朝餉が始まる。


「ライス」「みそしる」「小魚の佃煮(つくだに)」「のり」「つけもの」。


基本的に一日三食、あまり変わり映えはしないが、不思議と飽きがこない。

稀に「そば」や「うどん」というヌードルが提供されることもあるらしいが、それは主に昼餉の際のこと。

割烹で味わうような美食は、年に数回。

他の市井で見られるような収穫祭、或いは棟梁の誕生日、その他祝い事の時に限られる。

ミヤマの根底にある『(ぜん)』という教えは、兎に角、ストイックで無駄がない。


朝餉が終わると、いよいよ鍛冶の仕事が始まる。

皆が持ち場に着き、様々な仕事に取り組む。

ミヤマの武具は細部に至るまで分業制であり、鞘を作るものはそれを専門とし、握りを作るものも、刀身を打つものも、あらゆる専門分野に『頭』と呼ばれるリーダーがいる。

棟梁は『頭』を束ねる者であり、全ての作業に通じている必要がある。

故に棟梁の候補として選ばれた者は、若いうちから、分業する全ての分野を回り、知見や理解を深めなければならない。


クサカベ衆は一族の中でも特別な存在であり、姓を名乗ることを許されている。

言わば分家のミヤマであり、ミヤマの暗部をも担う。

忍びの術に長け、戦場さえも暗躍する。

現在の棟梁、タダオミ・クサカベも齢九十を過ぎ、そろそろ代替わり。

しかし、影に生きるクサカベには襲名式もなければ、葬儀もない。


これが名匠ミヤマという一族。

そして、その流儀。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ