猛者とミヤマ
採取した風雷魔石を冒険者ギルドに預け、夕暮れ、ミヤマの屋敷に向かう二人。
その荷の中にあるのは鑑定を要する二つの魔石。
「こんな時間から押し掛けて大丈夫?」
と、シャアリィがアイシャに問えば、
「否、こういう時間のほうがいいんだ」
と、アイシャに考えがあるようだ。
「なるべくならば、クサカベさんとだけの密談にしたい」
「当然、棟梁は立ち会うだろうけれどね」
「棟梁が代わったばかりのミヤマは一枚岩ではないかも知れないでしょう?」
「何が起きるかわからないなら、不安は少ないほうがいい」
考えてみれば、百人もの人間がいる事実。
棟梁の客人とは言えど、シャアリィやアイシャを快く思わない人間だっているかも知れない。
セレンの伝言の一節が頭に過る。
『名前を売り過ぎた』
名匠ミヤマに属するというだけで名誉なことなのだが、誰にだって野心が芽生えることもあるだろう。
考えたくもないことだが、足元を掬われるよりは良い。
落日を過ぎたミヤマの屋敷・・・。
昼間大人しかったシキガミたちが、うようよと周囲に集まって来る。
もし、僅かでも敵意を見せれば、この群れに喰らいつかれることになると思うと、さすがに肝が冷える。
シキガミを視界に捉えず、自分達がただの客人であることを意識して、玄関の打ち板を小槌で叩く。
こんな時間にも関わらず、女中のひとりがすぐに現れて、
「おかえりなさいませ、お客人」
「中へどうぞ」
と、丁寧に通してくれた。
待つこと一分少々の短い時間で、ミヤマが姿を見せ、
「例の件でございますね、生憎、クサカベは夕餉の最中」
「申し訳ありませんが、その部屋にて、お寛ぎ下さい」
と、一つの部屋を掌で示す。
「防音結界付きの座敷であれば、他言無用のお話でも問題ないかと」
さすがはミヤマの棟梁、事がどんなものであろうと配慮は粋だ。
女中がお茶を置き、二人だけが部屋に残され半刻程。
「アイシャ殿、シャアリィ殿、お久うございます」
「先代が仰ってた通り、随分とご立派になられましたな」
「このクサカベに出来ることならば、何なりとお申し付け下され」
相変わらずのクサカベ。
席を外そうとするミヤマを、アイシャが呼び止める。
「棟梁に隠れて密談等するつもりはありません」
「我々はミヤマに恩を受けた身、お気遣いだけ有難く頂きます」
「大体は察していらっしゃると思いますが・・・」
と、防水布に包んだ二つの魔石をテーブルに並べる。
クサカベの視線がそれだけに注がれ、その魔石の価値がミヤマにも伝わる。
「四霊玉石・・・と、聖玉石・・・また、とんでもないものを」
クサカベが四霊玉石と呼んだ『廃棄の王』の魔石は、青、赤、緑、茶の色が混じり、見た目には美しいと呼べない魔石。
対して聖玉石は、ほぼ白色の石に薄い緑色の縞が入る美しいモノ。
「では、まず聖玉石を拝見しましょう」
両手の人差し指と親指で石を持ち上げ、灯りに翳し、何度も角度を変えて、丹念にそれを眺めた後、クサカベの口から、
「曙の癒し・・・ですな」
中級治癒術、ブライト・ヒーリング!
二人にとって待望の回復術式が手に入った。
「これは、どんな恐るべき魔物を倒して手にいれたのです?」
と、ミヤマに問われ、シャアリィが答える。
「イルオールド四層のグリフォンです」
ミヤマとクサカベから零れる感嘆の溜息。
クサカベは目に涙さえ浮かべて、アイシャに頭を下げる。
「立派な猛者になられましたな、アイシャ殿」
「このクサカベ、感服にございます」
アイシャは鵺斬をホルスターから外し、
「相方の助力あっての討伐」
「そして、この刀の為した偉業」
「ミヤマの方の手柄でもあります」
と、謙遜した。




