狩り過ぎ
ナップサックに入り切らない魔石を防水布で包んで、アイシャが背中に担ぐ。
一階層は既に風の唸りが消え、静寂の石畳だけがそこにある。
「これで玄室は全部回った」
「通ってない通路もあるけれど、そこまで毟らなくてもいいだろう」
アイシャが淡々とした口調で、戦果を告げた。
シャアリィは、途中二回程魔力回復剤を口にしたものの、既に魔力は全回復。
「流石にゾンビ畑みたいには生えてこないね」
「キリもいいし、帰ろうか」
アイシャが相槌を打ち、二人は迷宮の出入り口に向かう。
元々イルオールドの浅層は、込み合うことがあまりない。
ルーキーがやってきて、必死の狩りをする場所としては危険度も高い。
ほぼ駆逐し尽くした所で、文句は出ないだろうというアイシャの見立て。
それは的中していたが、思わぬ連中から苦情を言われた。
「短時間で狩り尽くしたら、下層に降りる時に大量ポップして危ねえだろうが」
「迷宮はお前らだけの狩場じゃないんだよ」
「それくらい分からないのか」
言い分は尤もらしいが、恐らくは言い掛かり。
通路での大量ポップなど聞いたこともない。
玄室の中は派手に荒らしたが、基本的に玄室から魔物が溢れるようなことはない。
「おやおや、ここのクラス3ってのは、随分と軟弱だね」
「一応、謝罪はするよ」
「気を利かせられなくて済まなかったね」
「だが、一日、二日は、一層はフリー・ルートだ」
「私達が開けた道を存分に使うといい」
アイシャは鼻で嗤って喧嘩腰。
「魔物ちゃんを数えながら狩ったほうが良かったのかな?」
「それとも、私達が潜る階層を宣言しとけばいい?」
「お願いされたなら、相談には乗るよ?」
シャアリィも譲る気はないらしい。
「新参が好き放題やるなら、俺達にも考えがあるさ」
「俺達も浅層で乱獲するまでだよ」
「そうすりゃあ、舐めた真似も出来ないだろうよ」
ベテランらしき男の言葉に、アイシャが礼を言う。
「深層を空けてくれるなら、尚更、助かるよ」
「それでいいなら、私達は深層に潜るまでさ」
「ああ、火炎エリアは面倒だから私達は手を出さない」
「通る時に摘まむ程度だ」
「安心してくれていい」
アイシャの言葉に誰もが黙る。
ただ、ギルドの受付嬢だけがまともなことを言う。
「ギルドとしては、魔石の売りが沢山あれば喜ばしい限り」
「競い合おうが、邪魔しようが、事が起きない限りは関与しませんよ」
その言葉をギルドの裁定と受け取った者達は、舌打ちをして引っ込んだ。
アイシャは、済まなさそうに受付嬢に魔石の用途を話す。
「申し訳ないんだが、魔石は術式獲得に使うんだ」
「売り物じゃなくて悪いね?」
「逆に言えば、私達の滞在は十日にも満たない」
「まぁ、自然災害の類と思って、少しの間だけ我慢してもらいたい」
「風雷のエリアだけ使えれば、他には手を出さないよ」
それ、言っちゃう、と、ばかりにシャアリィが念を押す。
「これは私達にとっては重要なこと」
「遮る者は容赦しない」
「魔物であろうが、人であろうがね」
「仲良く魔物を取り合うなら、別に構わない」
「私達は魔物の横取りはしない」
「事故でそうなったなら、魔石の権利は当然、譲る」
「わかるでしょう?」
シャアリィの金色の瞳に射抜かれては、たまったものではない。
半日で一階層を狩り尽くす程の術式使いだ。
「あ、はい」
と、受付嬢は、間抜けな返事を返すしかなかった。




