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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
353/414

最後の仕上げ

『黒猫のテラス』に辿り着いた時には二人共酷い有様だった。

アイシャドウは剥がれ、ファンデーションには涙の跡がくっきりと残り、傍目から見ても大泣きしたのが目に見えてわかる。

『黒猫のテラス』の一流の接客は、二人に蒸しタオルと小さな手鏡を用意してくれた。

奥の目立たない席で、申し訳程度には化粧直しも完了。


流れ出てしまった涙を取り返すように、シャアリィはウォッカ・トニックをオーダー。

アイシャも又、ジン・ライムを頼む。

あとは楽しい酒を飲むだけとばかりに。


「さて、一息ついたことだし」

「私達は私達の時間に戻ろう」

「何時までも悲しんでばかりもいられない」


それはシャアリィも同感だ。


「ワイバーンは魔石が魅力だけれど、よく考えたら必要性がないよね」

「アイシャのスキル取得に使うなら、質より量」

「アイシャのレベルを考えたら魔石の数って多分、千は絶対に必要」

「二千でもおかしくないんだから」

「その数に見合うワイバーンだと、数百体狩らないとでしょ?」


シャアリィの指摘通りで間違いない。


「そうだね、レベル上げも兼ねてだったけれど、既にエンダーベルトでかなり上がった」

「迷宮か、それとも手近なフィールドか・・・」

「密度から考えれば、やっぱり迷宮だね」


じゃあ、決まりだ、と、二人は身軽に腰を上げる。


・・・


アイシャの要望通り、十六階建ての高層建築の屋上に来た。

あの日と何も変わらない風景。

目につくのはミヤマの屋敷だけ。


「天国ってさ」


唐突にアイシャが話し始める。


「教会の説法じゃ雲の上にあるんだってね」

「でも、旧世界人類の書物では、雲の上にあるのはただ闇の空間」

「その遥か彼方に、あの太陽があって、夜見ると綺麗な月があって」

「そのもっともっと遥か向こうに夜空の星々があるんだって」

「天国って本当はどこにあるんだろうね?」


シャアリィは冷たい風に吹かれながら、アイシャの郷愁を悟った。


「私達の知らない場所だよ・・・」

「きっといい所なんだろうね?」

「誰も帰ってこないこと考えたらさ」

「私達は残念だけど、そこには行けない」

「多分、ミヤマ先生もそこにはいないよ?」


アイシャはくすりと笑って、シャアリィと指を示しあう。


「こんなに業が深いんだからね」


シャアリィが続ける。


「でも、いいじゃん」

「地獄でも何処でも、さ」

「私はアイシャに付き合ってあげるし、アイシャも私に付き合ってくれるでしょ」

「死んでみなきゃわかんないことは、死んでから考えよう」


二人の旅の締め括り。


「イルオールドの迷宮で乱獲だ」

「魔石五千個、私が私であるために」

「二人の自由を取り戻すために」

「最後の仕上げをしよう」


アイシャの宣言に、シャアリィは螺旋杖をくるくると回す。


「ファンファーレは私にお任せだよ」

「ザグレブホーン仕込みの殲滅、見せてあげるからね」


迷宮さえ崩落させなければ、好きにすればいい。

と、アイシャは笑い、シャアリィは飛び跳ねる。


風に踊る髪は、もう、肩まで伸びた。

休暇を満喫して向かう先はイルオールドの迷宮。


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