涙の味
ランドウの死は、アイシャに何を残したのか。
シャアリィはどう接して良いのか、正直なところわからない。
シャアリィ自身、ランドウに対しては少なからぬ好感を持っていたのだから、自分自身の悲しみさえやり場がない。
「アイシャ、ちょっと散歩に行かない?」
「私達の散歩と言えば、勿論、あそこなんだけれど」
そう言って、『黒猫のテラス』にアイシャを連れ出す。
六月の風は早めの夏の到来を感じさせてくれる。
日差しに当たって、甘味を口にすれば、ほんの僅かでも幸せな気持ちになれる。
「そうだね、行こうか」
「それと、あの高い建物の屋上、行きたいな」
シャアリィとアイシャは、稀にしかしない化粧をする。
そうしなければ、二人とも少しばかり顔に生気が足りなかった。
ミヤマの屋敷の門を離れると、アイシャが何かをぶつぶつと呟き始めた。
「大体さ、なんでいちいち正しいことばっかり言うんだよ」
「あの鬼婆ぁは」
「それでいて、最後には優しくなって先に召されちゃうなんて、この気持ち、どうしてくれるんだよ」
シャアリィは、呟きを聞き取って思わず噴き出した。
「あはは、違いないね」
「亜竜を単独行で狩ってこい、とか、ぶっちゃけ、ふざけんなって思ったし」
「でも、断れないんだよねー」
「筋通ってて、しかも、出来るか出来ないかギリギリの所狙ってるんだもの」
アイシャの声が呟きの音量で済まなくなる。
「ホントにアレはヤバかったんだからね」
「弩弓なんて二発目入れる時間ないし、三節棍は咥えられて持ってかれるし」
「蜥蜴の頭、拳で殴ったり、もうめちゃくちゃだった」
それでも、と、シャアリィが続ける。
「鵺斬と彗星棍、セットで亜竜の魔石二個とか破格過ぎでしょ」
「やっぱり、なんだかんだ言って、アイシャは大切にされてたんだよ」
その言葉が引き金になってしまった。
「そうだよ・・・本当に良くしてもらったんだ」
「あのひとがいなければ、今の私はいない」
「あのひとがいたから・・・う、ぅ」
アイシャの涙は止まらない。
「もう少しだけ、どうして・・・一緒にお茶飲む約束してたのに」
「なんで約束破るの?」
「チョコレート食べて欲しかった、美味しいって言って欲しかった」
「少しだけ甘えさせて欲しかった」
「もっともっと褒めて欲しかった」
「悲しい、悲しいよ・・・何にも出来ないなんて」
シャアリィはアイシャの髪を撫でて、
「化粧が落ちちゃうでしょ・・・泣かないで」
「私も、悲しく、なっちゃう、から・・・」
そのまま、二人蹲って暫く泣き続けた。
涙を流すとそれだけストレスが緩和されるのだという。
ひとの身体は不思議だ。
どんな悲しみにも耐える力があって、どんな辛いことでも忘却出来る。
今はまだ、泣くことだけが薬でも、そのうち、きっと。
――― 泣きたい時は、泣くほうがいい。
それは心の安全装置。
泣けない時だって、これからあるかも知れない。
それなら涙の味さえも大切な思い出になる。




