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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
352/395

涙の味

ランドウの死は、アイシャに何を残したのか。

シャアリィはどう接して良いのか、正直なところわからない。

シャアリィ自身、ランドウに対しては少なからぬ好感を持っていたのだから、自分自身の悲しみさえやり場がない。


「アイシャ、ちょっと散歩に行かない?」

「私達の散歩と言えば、勿論、あそこなんだけれど」


そう言って、『黒猫のテラス』にアイシャを連れ出す。

六月の風は早めの夏の到来を感じさせてくれる。

日差しに当たって、甘味を口にすれば、ほんの僅かでも幸せな気持ちになれる。


「そうだね、行こうか」

「それと、あの高い建物の屋上、行きたいな」


シャアリィとアイシャは、稀にしかしない化粧をする。

そうしなければ、二人とも少しばかり顔に生気が足りなかった。

ミヤマの屋敷の門を離れると、アイシャが何かをぶつぶつと呟き始めた。


「大体さ、なんでいちいち正しいことばっかり言うんだよ」

「あの鬼婆ぁは」

「それでいて、最後には優しくなって先に召されちゃうなんて、この気持ち、どうしてくれるんだよ」


シャアリィは、呟きを聞き取って思わず噴き出した。


「あはは、違いないね」

「亜竜を単独行で狩ってこい、とか、ぶっちゃけ、ふざけんなって思ったし」

「でも、断れないんだよねー」

「筋通ってて、しかも、出来るか出来ないかギリギリの所狙ってるんだもの」


アイシャの声が呟きの音量で済まなくなる。


「ホントにアレはヤバかったんだからね」

「弩弓なんて二発目入れる時間ないし、三節棍は咥えられて持ってかれるし」

「蜥蜴の頭、拳で殴ったり、もうめちゃくちゃだった」


それでも、と、シャアリィが続ける。


「鵺斬と彗星棍、セットで亜竜の魔石二個とか破格過ぎでしょ」

「やっぱり、なんだかんだ言って、アイシャは大切にされてたんだよ」


その言葉が引き金になってしまった。


「そうだよ・・・本当に良くしてもらったんだ」

「あのひとがいなければ、今の私はいない」

「あのひとがいたから・・・う、ぅ」


アイシャの涙は止まらない。


「もう少しだけ、どうして・・・一緒にお茶飲む約束してたのに」

「なんで約束破るの?」

「チョコレート食べて欲しかった、美味しいって言って欲しかった」

「少しだけ甘えさせて欲しかった」

「もっともっと褒めて欲しかった」

「悲しい、悲しいよ・・・何にも出来ないなんて」


シャアリィはアイシャの髪を撫でて、


「化粧が落ちちゃうでしょ・・・泣かないで」

「私も、悲しく、なっちゃう、から・・・」


そのまま、二人蹲って暫く泣き続けた。

涙を流すとそれだけストレスが緩和されるのだという。

ひとの身体は不思議だ。


どんな悲しみにも耐える力があって、どんな辛いことでも忘却出来る。

今はまだ、泣くことだけが薬でも、そのうち、きっと。


――― 泣きたい時は、泣くほうがいい。


それは心の安全装置。

泣けない時だって、これからあるかも知れない。

それなら涙の味さえも大切な思い出になる。


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