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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
350/396

襲名披露

翌日午後。


厳かな空気の鍛冶場で、ミヤマの引退式とテッシュウの襲名披露が行われた。

披露とは言うものの、身内だけでの式典。

外部から客を招くわけではない。


本来であれば職人ギルド総出で祝う事柄なのだが、ミヤマの体調を考慮すれば派手な式典は(はばか)られた。

何より本人の意向でもある。

所詮、鍛冶師というのは裏方、表舞台を飾るのは刀剣の所有者であれば良い。

最後まで鍛冶師の矜持を貫く引退式だった。


「当代棟梁、ランドウ・ミヤマ」

「本日を限りに一線を退き、後進をテッシュウに譲り渡すことを所望する」

「棟梁の指名に不満のある者は、十数える間に進み出て、理由を述べられよ」

「左もなくば、沈黙にて認められよ」


声に表さない沈黙の十秒が過ぎ、ミヤマの顔が綻ぶ。


「では、テッシュウが今日より、ミヤマとなる」

「以後、私はただのランドウであり、諸君らの先達としてのみ教えを説く」

「ミヤマの灯は、テッシュウ・ミヤマが新たな守り手となり、受け継ぐものとする」


ミヤマの屋敷に集う百名もの鍛冶師、そして見習い、女中に至るまでが拍手を奏で、ランドウの最後の掛け声で締める。


「一本締め、お手を拝借」

「ぃよーお」


パンと鳴り響く一拍の柏手が長い長いランドウ・ミヤマの歴史の終止符。

鍛冶師達の輪の中央で、ランドウがテッシュウを招く。


「先代より指名を頂き、若輩ながら棟梁を任せられました」

「御恩に報い、この身を刀剣に捧げ、盤石たるミヤマの名に甘えることなく、より強く、より気高い、鍛冶の名門を目指したいと思います」

「皆の良き手本となれるよう粉骨砕身、力を尽くす所存です」


鍛冶師の顔触れを見れば、年配、熟練、精悍、錚々(そうそう)たるミヤマの鍛冶師達。

不平不満を口にする者はいないが、ぼやぼやしてれば追い落とされることも職人界隈では日常茶飯事のこと。

棟梁になったからと言って安穏としてはいられない。

テッシュウは、それをよく(わきま)えている。


百名余名もの拍手の渦の中心で、テッシュウの最初の掛け声が響く。


「一本締め、お手を拝借」

「いよーお」


大きく打ち鳴らされた柏手に満足するかのように、テッシュウは深く頭を下げ、鍛冶師の群れに紛れる。

再び輪の中心に入ったランドウが、


「今日は客人が少ないが、皆にも知っておいてもらいたい二人」

「迷宮踏破と四つの名有り殺し、現役最強の冒険者」

「ミヤマの鵺斬の保持者アイシャ・セロニアスと、その相方シャアリィ・スノウ」

「暫く屋敷に滞在するので、皆、心得ておいてくれ」


二人を紹介する。

大袈裟なとアイシャは思いながらも、深く礼をし、シャアリィも倣う。


「お世話になります」


この人数の前では、それだけ口にするのが精一杯だった。


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