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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
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蟹病み

「本当に良い時に会えた」

「刀をみせてくれ」


ミヤマの言葉のままに、アイシャは歩み出て、ミヤマの前に『鵺斬』を置く。

刀の鞘を持つミヤマの腕が震えている。

が、例の如く手慣れた仕草ですらりと抜き放ち、刀身を眺める。


「うむうむ」

「アイシャ、よくぞここまでの剣士になったね」

「だが、まだまだ先は長い、精進を怠るなよ」


それはミヤマの最上級の褒め言葉。

アイシャの瞳から、一筋の涙が溢れる。


「ありがとう、ございます」

「さらなる高みを目指し精進致します」


ミヤマは鵺斬を鞘に仕舞い、テッシュウに渡す。

テッシュウは、剣士を思わせる所作で素早く鵺斬を抜刀し、同じように刀身を眺める。


「凄まじい・・・ですね・・・」

「こんな刀剣、どうやって打つのやら・・・」

「こんな難しい刀剣でどうやれば斬れるのやら・・・」

「己の未熟さを痛感しました」


ミヤマは笑う。


「斬るのは『鋭さではなく摩擦』だ」

「この長い刀身、何処に其れを起こすのかを理解すれば、斬るのは難しいことじゃない」

「使い手がそれを理解できるように考えれば、打つことも難しいことじゃない」

「何故、刀剣がこの形なのかを常に心に描くことだよ」


アイシャはその言葉を噛み砕き咀嚼する。

それをやさしげな眼差しでミヤマは眺め、


「これが私の最期の刀だよ」

「私は、あとひとつきも持たない」

「『蟹病み』でね・・・もう、体中、錆びだらけさ」

「人間の身体も、溶かして打ち直せれば良いのに、それは無理な話」

「否、だからこそ、命の炎は美しく燃える」

「業の深い人生だった」

「イキモノを、動くモノを斬るための道具に血道を注ぎ、その出来栄えに歓喜する」

「よくぞ今まで、生き永らえることを神が許してくれた」

「そして、こんな粋な巡りあわせを用意してくれた」


『蟹病み』・・・それは不治の病。

身体の中に生まれる悪性の細胞変異。

治癒術を用いても進行を遅らせる程度しか出来ることはなく、その病はやがて全身を浸食して死に至る。


「命を奪うのが『蟹病み』で良かった」

「残された時間も、ある程度分かる」

「片付けものも捗り、言葉を交わす猶予もある」

「さて、心残りもなくなった」

「明日にはテッシュウの棟梁襲名披露をしようじゃないか」


ミヤマの眼がシャアリィの螺旋杖を捉える。


「おやおや、お前は本当に私を驚かせるのが好きだね?」

「そんな物騒な杖を作れる奴は、ヘリントスか」

「二人揃って、変人職人と縁があるらしいね」


と、肩を揺すって笑う。


「はい、私達も粋な巡り合わせによって生かされています」

「業の深い人生、結構なことじゃないですか」

「楽しく、苦しく、笑って、泣いて」

「これぞ人生って・・・所詮小娘ですので、笑って流して下さい」


シャアリィが空気を読まない言葉を発すれば、場の雰囲気が和んだ。


「暫く、ご厄介になっても構いませんか?」


アイシャの気持ちを考えれば、自然と出た我儘。

ミヤマは快く応じる。


「テッシュウ、客間の支度を頼むよ」

「こいつらは番みたいなものだから、一部屋でいい」


テッシュウは手短に返事をして、奥の扉に姿を消した。


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