トマトジュースとクレーム・ブリュレ
翌朝、シャアリィとアイシャは、フェザーエリスの街を出た。
何時ものようにキャラバンに紛れ、片道三日の旅路の先はイルオールド。
中継点はひとつ、野営が一回。
文化の中心であるイルオールドが近く、周辺は自然環境保護の指定地域。
無暗やたらと樹木を伐採することは禁じられている。
街道から少し奥に行けば魔物とも遭遇するだろうという環境だが、アクシデントらしいこともなく、キャラバンはイルオールドに到達した。
ほぼ一年ぶりとなる東の街は、相変わらずの賑やかさでシャアリィとアイシャを迎える。
キャラバンを降りて真っ先に向かうのは、懐かしの『黒猫のテラス』(姉妹店)だ。
「アイス・ココアとクレーム・ブリュレ」
何時ものようにシャアリィのメニュー決定は早い。
アイシャは少しメニューを眺めてから、
「私もブリュレを頂こう、飲み物はトマトジュース」
珍しいものを注文するね、とシャアリィが言うと、
「甘いとしょっぱいの重ねは、なかなかに美味しいよ?」
と、返す。
久しぶりの上等な甘味を堪能した後、ミヤマへの贈答用に一ダース、自分たちの消費用二ダースのチョコレート。
さらに二ダースのキャラメルを仕入れて、店を出た。
「冒険者ギルドに寄ろうか」
と、アイシャが言えば、少しばかり表情を引き締めてシャアリィも頷く。
・・・
イルオールドの冒険者ギルドは活気がある。
踏破済みの迷宮ではあるものの、複雑な多属性構成の迷宮は今尚活性が高く、ベテラン達にとっては稼げる迷宮だからだ。
反面、まだ、その域に達していない未熟な冒険者が、頻繁に命を落とす迷宮でもある。
特に三層、六層に存在する火炎属性のエリアは難所だ。
場所によっては脚を踏み外すだけでも、大火傷、焼死しかねない。
シャアリィとアイシャが必要とするのは風の魔石。
当然、火炎属性エリアは素通りするつもりだ。
風雷属性のエリアは、一層、四層、最下層。
最下層の活性を確認した上で、フィールドのワイバーンとどちらが効率的か比較する。
「地域冒険者章を・・・」
から、始まる一連の流れ。
ついにこの迷宮にも来たか、という雰囲気の受付嬢。
「この街の迷宮は既に踏破済みですが、どんな御用でしょうか?」
「一応、ネームドはいますけれど、そちらは掲示板でご確認下さい」
二人は顔を見合わせて笑う。
「いやいや、道場破りじゃないんですから」
「たまにはのんびり狩りをすることだって、ありますよ」
「それにここは観光する場所も多いので」
等と、すっとぼけたことを言っても、周囲の反応は変わらない。
「やっぱ、『嵐の翼』だろ・・・」
「いや、『大波の主』かも」
そう期待されても、と、思いつつ。
二人はギルド発行の迷宮地図を買って、そそくさと冒険者ギルドを後にする。
「さすがに四つは、やり過ぎだよね」
と、シャアリィが言えば、
「好き好んで狩ったのは、二つだけなんだけどね」
「他の冒険者にも、もう少し頑張ってもらいたいものだ」
「新しい場所に行く度に、これだと肩が凝る」
アイシャも、贅沢な悩みを口にしながら、その足をミヤマ邸に向けた。




