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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
345/395

獅子の戦い

アイシャとフェニトが並んで闘技場の中央に向かう。

互いに前を見据えたまま、フェニトが口角を吊り上げて囁く。


「おや、てっきり逃げるかと思ってたんだがな」

「不出来者の割には、いい心構えじゃないか」


アイシャは答えない。

フェニトは更に恥辱の言葉を並べる。


「面目を保つだけの人身御供ご苦労様って感じか」

「いっそ断れば宗家に恥を塗ってやれたものを」

「まぁ、木偶みたいに俺様に殴られて吹っ飛ぶだけの簡単な仕事だ」

「なるべく楽に倒してやるよ」


アイシャはただ、小さく嗤う。


「聞いてんのか」

「そっちがそういう態度なら遠慮はしねえ」

「覚悟しやがれ」


互いに無手同士。

十メートルの距離を置き、対峙する。

拡声魔具による場内アナウンスが会場に響く。


『宗家代表、アイシャ・セロニアス』


観客の声援を受けて、アイシャが右手を挙げて応える。


『分家代表、フェニト・セロニアス』


観客はどうやらアイシャ贔屓らしい。

アイシャの半分にも満たない拍手にフェニトが苛立ちながら、親指を立てて、首を切り裂く仕草をした。


『五・・・四・・・三・・・二・・・一・・・始め!』


銅鑼の音が鳴り響くと同時、フェニトがアイシャ目掛けて突進。

顔面に向けた膝蹴りは、外れても次の動作がしやすい。


アイシャは冷静にそれを右に躱すが、フェニトの左腕が伸びる。

それはアイシャの首筋目掛けた手斧。

初手からの連携はアイシャには通用せず、着地したフェニトの背にアイシャの裏蹴りが入る。

どよめく歓声に苛立つフェニト。


中央で待つアイシャに再び接近し、左右の拳の連撃、その回数が十を超えても、全てが空を切る。

フェニトの中で焦りが生まれた。

何故、あの不器用なアイシャに自分の拳が当たらないのか、理解出来ない。


アイシャは感情のない目で、フェニトが焦る様子を見据える。

左右の回し蹴り、踵落とし、足払い、ボディ・ブロー、頭突き、回転蹴り・・・

その全てがアイシャの身体を擦り抜ける。


「どうした分家」

「不出来者を誅するのではなかったのか?」


初めて開いたアイシャの口から出た言葉に、フェニトが激高した。

そして、前蹴りと見せかけて、会場に敷き詰められている砂利を跳ね上げる。

不意の目潰しに一瞬の隙が生まれ、フェニトの足払いが、アイシャの軸足を刈り取る。

倒れるアイシャの身体に膝を落とし、アイシャの腹上に跨ると顔面目掛けて打ち下ろしの拳を狂ったように浴びせる。


アイシャの鼻が折れ、顔面が血に染まっても、まだ殴り続ける。


「死ねよ欠陥品!」


大きく振りかぶった一撃。

その拳が振り下ろされた。


だが、それはアイシャの額によって弾かれる。

頭骨と指の骨では強度が違う。

アイシャの渾身の頭突きが、フェニトの右指三本の骨を砕いた。


一瞬怯んだものの、フェニトは左の拳でアイシャの米噛みを狙う。

それを読み切っていたアイシャは左半身を跳ね上げて、フェニトのバランスを崩し、体勢を入れ替えた。


今度はアイシャがマウントポジションだ。

両手でフェニトの肩を押さえつけ、フェニトの顔面に頭突きを、


浴びせる、浴びせる、浴びせる、浴びせる、浴びせる。


鼻が陥没し、前歯が折れても、尚、


浴びせる、浴びせる、浴びせる、浴びせる、浴びせる。


失神し、白目を剥いても、尚、


浴びせる、浴びせる、浴びせる、浴びせる、浴びせる。


フェニトの脚がぶるぶると痙攣し、失禁した所で、(ようや)くアイシャが立ち上がった。

顔面を流血に染め、腫れあがった(まぶた)

僅かに開いた隙間から覗くのは、獅子の眼光。


無残極まりない有様だが、アイシャは両手を天に掲げて健在をアピールした。

駆け付けた上級治癒師たちが、二人にそれぞれ治癒を施す。

アイシャは手渡されたタオルで、血を拭い、額から鼻筋を抜けて頬に向かう一直線の血文字を引いた。


それこそは、宗家の戦化粧、袈裟一文字。

エキシビジョンはアイシャの勝利で幕を閉じた。


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