宗家の者として
翌朝、アイシャの元に齎されたのは、次兄セレンからの伝言だった。
どのように居場所を知ったのかは言うまでもない。
メラクとフェニトが教えたのだろう。
『親愛なる妹へ』
『武闘会に出場しなさい』
『結果は問わない』
『ただ宗家の者として戦場に背を向けることはするな』
『例え負けるとわかっていても、やらねばならない時がある』
『お前は余りに名を売り過ぎてしまった』
『出来れば、勝て』
『棟梁も期待している』
アイシャは、それを受け取り愕然とする。
(分かっていて恥を晒せというのか、兄上は・・・)
(又してもこの身に刻めというのか、弱さの罪を)
「いいだろう」
「そこまで請われるのならば、やろうじゃないか」
「勝ち負けはどうでもいい」
「あいつらにも恐怖というものを教えてやる」
アイシャは犬歯を剥き出して怒りの言葉を並べた。
シャアリィはいっそ闇討ちで分家の連中を殺害しようなどと物騒なことを考えた、が。
「シャアリィ、これは私の戦いだ」
「武芸に生きる者の血が流れている以上、避けられない」
「なに、命まで取られるわけじゃあないさ」
「ぶん殴るか、ぶん殴られるか、その程度のこと」
闘技場に着き、参加を申し出ると、既に話が通っていた。
「エキシビジョンとして依頼した件ですね」
「宗家代表は、セレン殿のはずでしたが、アイシャ殿へ変更、と」
「相手は・・・フェニト殿になります」
「いやぁ、実に楽しみだ」
そう言われてもシャアリィは全く楽しみではない。
「木剣、棍、稽古槍ならば使用できますが、如何ですか?」
問われたアイシャは、
「相手に合わせよう」
と、答えた。
「では、明日、午後四時からの試合となります」
「他にご質問、ご要望はありますか?」
シャアリィがそれに答える。
「一番近い観覧席、費用が必要ならば支払います」
アイシャに目配せで、勝てと伝える。
「費用は必要ないですよ」
「では、宗家側の一席をお取りしますね」
まるで最初から仕組まれていたかのように流れるように決まる段取り。
それは吉兆か凶兆かはわからない。
ただアイシャは今までの道程を振り返る。
命掛けで戦った幾つもの戦果。
そしてシャアリィの存在。
それだけが今のアイシャの心の拠り所だ。




