分家
珈琲を飲み終わり、まだ、雨が降り続く中、シャアリィとアイシャは防水布も用意せず店を出た。
そして宿屋の看板を見つけると滑り込むように扉を開ける。
「空いている部屋はありますか?」
「出来れば、ツインかダブルで」
幸いにして部屋の空きはあり、前金で二人分の銀貨十六枚を支払う。
濡れた髪の水気をタオルに吸わせ、人心地着く。
シャアリィが気にしていることをアイシャが先んじて口にする。
「彼らは分家のセロニアスだよ」
「私の父は宗家の棟梁」
「宗家の血を引く者は白毛」
「生まれつきの身分制度故に、私のような白毛の不出来者は嘲笑の的なんだ」
「師父というのは、分家の棟梁のこと」
「全てを棟梁と呼ぶと紛らわしいからね」
「赤い方がメラク、黒い方はフェニト」
「私の兄達を除けば、最強クラスのセロニアス・・・」
シャアリィは気分を変えるべく、アイシャに囁く。
「私はアイシャの白い髪が好きだな」
「それにね、もしかしたらアイシャの方が強いかもよ?」
「武具の有り無し関係なく戦ったなら、きっと」
アイシャは自嘲混じりに零す。
「並みの剣ならば手刀で叩き折る連中相手じゃ、無理だよ」
「セロニアスが特定の権力者だけに肩入れしないのは、そういうことなんだ」
「アンナではないが、セロニアスという存在は領土間の力関係をひっくり返してしまう」
「教会から封印指定される前に、自ら閉ざして身を守っている一族」
大きな溜息をついた後、アイシャは作り笑いを浮かべて、
「少しくらい揶揄されたからって、どうということはない」
「私はこうしてシャアリィと自由に旅が出来るし、選択肢は自分次第」
「師父やら棟梁やらに縛られることもないんだ」
「この自由に比べたら、武芸の伝承と、血の継承だけに生きる気にはなれないよ」
「不出来でむしろ良かったとさえ、思ってる」
シャアリィはその言葉で自分の中の苛立ちを抑えた。
自分よりもアイシャの方が絶対に悔しいだろうに。
その本人がどうでもいいと言うのならば、それ以上言葉にするべきじゃない。
「しっぽ、拭いてあげるね」
「はい、こっちに頂戴?」
するりとアイシャのしっぽがシャアリィの膝の上に乗る。
その先っぽだけがちょっと不機嫌そうに動いていて可愛らしい。
「ふふふ、ちょっとは嫌なんだ?」
「わかりやすいね」
アイシャは頬を膨らまして、明後日の方向を向きながら、
「ひとりじゃないって、うれしいね」
と、小さな弱音を吐いた。




