セロニアス
フェザーエリスに到着。
何時もならば冒険者ギルドに向かうのだが、この街の迷宮で狩りをするつもりはない。
迷宮の情報収集をする必要もなければ、一週間程度の滞在費用も懐にある。
エンダーベルトで稼いだ金貨は既に口座に入金済み。
大きな買い物をしないならば、商業ギルドにさえ立ち寄る必要もない。
「ん-、やっぱ地面はあったほうがいいねぇ」
と、シャアリィが大きく背伸びをすれば、アイシャも同感だとばかりに、
「慣れたといっても、やっぱり食欲も下がるし」
「おや・・・雲行きが怪しいね」
伸びをするついでに空を見上げたアイシャが、雨の到来を予告した。
「早めに雨を凌げる所を見つけよう」
二人は小走りに桟橋を移動し、最初に目についたカフェテリアに入る。
それとほぼ同時、雨が降り始めた。
「気付いて良かった」
「濡れなくて済んだね」
窓際の席からは、港が一望出来る。
「少し気温が下がりそうだから、カフェインを取ろう」
「私はコーヒーとチーズ・タルト」
珍しくアイシャが先にオーダーし、シャアリィもそれに乗っかる。
「私も同じものでー」
雨雲が空一面に広がって、雨は止む気配を見せない。
シャアリィはご機嫌で、チーズ・タルトを頬張る。
「ここって修行の名所だって聞いたけれど、セロニアスの人たちも来るのかな?」
そう問われたアイシャは、嫌な予感を感じ取る。
「ああ、イルオールドにも近いし、セロニアスの連中はこの街を気に入ってる」
「特に無手の連中・・・つまりは『本物』のセロニアスだね」
「滅多なことでは里の外には出ないが、ここは別だよ」
「修行の成果を測るには、セロニアスの中だけでは足りない」
「だから、ここの闘技場で武闘大会に出場することもあるんだ」
アイシャの表情からは苦々しさが滲み出ている。
「私の四人の兄たちは、大会優勝候補の常連」
「宗家の跡取りの資格とまで言われている大会」
「素手による試合だけに、私はまったく勝ち目がない」
「出来れば会いたくないな」
一人っ子のシャアリィには分からない。
「それなら、一週間も滞在せずに、すぐにイルオールドに行こうよ」
「私もここじゃあ役立たずなんだし」
そうしようか、と、口に出そうとした瞬間、アイシャの背中から声を掛けられる。
「よう、アイシャ」
「元気にしてたか」
「不出来者は自由でいいよな」
「俺達は師父の言いつけで、次の武闘会で勝たにゃならん」
「面倒ったらないぜ」
アイシャが簡単に背中を許してしまうような相手。
その男達の頭にはアイシャと同じような耳があり、尻尾もある。
セロニアス・・・だが、その毛色は黒毛と赤毛。
「相変わらず鈍いな」
「そんなんでよくも名有りを倒せたもんだ」
「どうせ、相方の手柄なんだろう?」
同族への無分別な物言いにシャアリィが立ち上がろうとした瞬間、
アイシャがそれを制止する。
「いいんだ、シャアリィ」
「言わせておけばいい」
テーブルの下で固く握り閉めたアイシャの拳が震えていた。




