サプライズ
一月、二月はあっとういう間に過ぎ、三月がやってきた。
この季節感のない島にも、春が訪れる。
いくら季節感が薄いと言っても、冬には日中気温も二十度を下回る。
さすがに半袖ではいられないが三月になると、既に長袖では汗ばむこともある。
もうすぐ魔石オークションの日がやってくる。
開催場所はグリーンノウズ領主府内の議事堂。
結果にそれ程の期待はない。
恐らく今頃、グリーンノウズ各所では、魔石オークションに参加する要人向けのプロモーションが花盛りだろう。
あのろくでなし共の街も、浄化キャンペーンとか銘打って犯罪者の一掃をしている頃ではなかろうか。
旅をする身の上で毎シーズンのようにやるべきことは、衣類の買い替えである。
少々勿体ないが、季節外れになったものは教会に寄付して現地処分。
ドレスのようなものであれば、エレナやナッチェに贈れば良いが、冒険に使うような普段着となれば、好みも分かれる。
押し付けるよりは、やはり、処分するほうがいい。
アンナも仕事に本格復帰した。
解禁日になった途端、教会や領主の依頼が舞い込んで来る。
それに交じって冒険者からの訪問を受けたりするのだから、ハンドベルの振り子を無くすアンナの気持ちも理解出来る。
夜型になってしまったのも、作業を中断されたくない、そういう理由なのだろう。
シャアリィが一つの解決策を提案した。
「完全紹介制にすればいいんじゃない?」
「どのみち大半は断ってるんだしさ?」
つまりは、領主府か教会で紹介状を書いて貰えということだ。
当然、自分達が依頼している仕事が滞るようなことを好まない領主府、教会は、滅多なことでは紹介状を出さなくなるだろう。
それが知れ渡れば、飛び込みの客を無くすことだって出来るかもしれない。
アンナは目をぱちくりさせて、
「シャアリィって、たまーに、凄いこと思いつくね?」
「自分で断るより、そりゃ楽だ」
「そうしよう」
と、シャアリィのアイデアを実践することにした。
土曜日は毎週、スパイス・スープの日となり、日曜日の夕食はアイシャとシャアリィの当番になった。
・・・
ある金曜日、二人がアンナの工房に戻って来ると扉が施錠されていた。
何時もの金曜日なら、アンナが出迎えるはずである。
「あれ、留守かな・・・まぁ、いいか」
と、アイシャが合鍵を使って扉を開けようと扉に近付いた。
だが、その瞬間、アイシャは扉から飛び退き、鵺斬を抜刀。
「シャアリィ、賊が潜んでいる!」
「気をつけろ」
シャアリィはげんなりした顔で、扉に近付いてノックする。
「アンナ・・・失敗だよ」
「アイシャの索敵を甘く見てた」
アイシャだけが事を理解出来ないままに、扉が開く。
中からアンナが出て来た。
「サプライズできねえ」
「まぁ、おかえり、いろいろ用意してあるからね」
シャアリィとアンナが内緒で企てたアイシャの誕生日パーティだ。
「おめでとう、アイシャも十九才だね」
「ほら、中に入ろう?」
呆然と立ち尽くすアイシャがかなり遅れて理解する。
「驚いた・・・ちゃんとサプライズになってるよ」
「ありがとう、アンナ、シャアリィ」
「ちょっと泣きそうかも」
シャアリィがアイシャの頭に手を伸ばして耳を愛でる。
「毎日、毎日、戦いに明け暮れてばっかりじゃね」
「お祝いくらいは、ちゃんとやろうってアンナと相談したんだ」
「アイシャは、ちょっとしっかりし過ぎだから、こういう時くらい甘えなよ?」
今日はアイシャの好きな魚料理がたくさん。
二人の大好物『トロ』の刺身をアンナが市場で仕入れてきた。
アンナもフランコと同じように、港町の人間なので魚は食べ飽きてしまっているが、やはり、『トロ』と『うなぎ』だけは別だと言う。
「大豆ソースも美味しいけれど、カルパッチョもイケるんだよ」
酸味の効いたソースが、『トロ』の油を中和して、良い味わいだ。
それとね、と、アンナが冷蔵庫から持ってきたのは自家製マヨネーズ。
「これを付けると普通の魚の刺身も『トロ』っぽくなる!」
シャアリィからの贈り物は、新しいベルトホルスター。
アンナからは、ホルスターにつける小物入れ。
ライスワインを楽しみながら、宴は深夜まで続いた。




